オペアンプで帰還ループに交流信号を印加する:Design Ideas 計測とテスト
信号印加用変圧器のコストと周波数帯域の制約を受けずにボード線図の測定を可能にするオペアンプを使った測定法を紹介する。
ボード線図(ボーデ線図)は、電源設計において小信号安定性およびループ応答を評価するための優れた方法である。ボード線図によって制御ループの利得と位相を調べられる。このボード線図を求めるには、帰還ループを遮断し、帰還ノードに信号を印加して、印加した信号と制御ループの出力信号とを比較する必要がある。このためにはネットワーク・アナライザーを用いて周波数を掃引し、印加信号と出力信号を比較する。
通常、信号の印加には変圧器を利用する。図1に変圧器を使って信号を帰還ループに印加する方法を示した。50Ωの抵抗はネットワーク・アナライザーの信号源とのインピーダンス整合を取る。この方法を用いると、直流(DC)ループはレギュレーションを維持し、ネットワーク・アナライザーが交流(AC)信号をDC電圧に重畳することができる。次にネットワーク・アナライザーは、信号源の周波数を掃引し、Aポート(電圧チャンネル)とRポート(リファレンス・チャンネル)をモニターしてA/R比を測定する。
この方法は電源供給の利得と位相を測定する最も標準的なものであるが、大きな制約がある。まず、低周波数帯域の利得と位相を測定するためには、変圧器のインダクタンスが高くなければならない。そのため、例えば100Hzよりも低い周波数になると、大きくて高価な変圧器が必要になる。
さらに、変圧器は高周波数も印加できなくてはならない。こうした広い周波数帯域を備える変圧器は一般にカスタム品になり、何百米ドルも掛かってしまう。そこでオペアンプを使うと、信号印加用変圧器のコストと周波数帯域の制約を受けずにボード線図の測定が可能だ。
図2は、信号印加のための加算回路にオペアンプを使った回路の例である。R1とR2によって電源供給出力から非反転入力端子に印加される直流電圧を半分の値に減衰させる。ネットワーク・アナライザーの信号源インピーダンスは一般に50Ωである。R1とR2はネットワーク・アナライザーからの交流信号も1/2に分圧する。従ってこれら2つの信号は、元の入力の半分の大きさで加算されるわけだ。次に、R3とR4によって設定される利得の2倍に増幅され、帰還ループに出力される。50Ωの抵抗はネットワーク・アナライザーの信号源とバランスを取るためのものだ。
この動作によって、帰還ループを実効的に遮断し、電源供給出力の直流電圧に交流信号を印加して、それを帰還ループに送り込んだことになる。
ネットワーク・アナライザーは、RポートとAポートをモニターすることで利得と位相を測定する。この方法では最低周波数の制限は生じない。ただし、オペアンプの帯域幅は、電源の制御ループの帯域幅よりも十分に大きくなるようにしておく必要がある。帯域幅が100MHzのオペアンプであれば、ほとんどのリニア電源およびスイッチング電源にとって十分である。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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