ランダムなビット列を生成する回路:Design Ideas 信号源とパルス処理
従来のビット列発生器は、帰還をかけたシフト・レジスターを使って疑似ランダム・ビット列(PRBS)を得ていたため、有限長で同じパターンを繰り返すという問題を抱えていた。今回はこうした問題を打破できる、ランダム雑音を使って出力データ列を発生する回路を紹介する。
データ伝送システムの開発/評価において、ランダム・ビット列の発生器は必須である。この発生器を使えば、ビット誤り率や、ビット・パターンに依存する基線ゆらぎ、データ・ジッター、再生したクロック信号のジッターを測定できる。
従来のビット列発生器では、帰還をかけたシフト・レジスターを使って疑似ランダム・ビット列(PRBS)を得ていた。このため、このビット列は有限長で同じパターンを繰り返すという問題を抱えていた。
図1に示す回路を使えば、こうした問題を打破できる。ランダム雑音を使って出力データ列を発生する回路である。この回路は「ECLinPS」シリーズの標準論理ICを使う*1)。まずレシーバーIC「MC10EL16」で、入力した雑音信号をデジタル信号に変換する。次に最初のフリップフロップIC「MC10EL31」において、クロック信号の立ち上がりエッジで、デジタル信号をサンプリングしてランダムな出力信号を生成する。理想的には、これでランダムなビット列が得られる。
ところがこの方法では、フリップフロップへの入力データとクロック信号の立ち上がりエッジが同時に変化すると、フリップフロップがメタステーブル状態*2)に陥ってしまうという問題が生じる。この結果、出力が不確定になり、伝搬遅延時間が長くなってビット列にジッターが発生する*3)。
そこで、この問題を回避するために2番目のフリップフロップIC「MC10EL31」を用意した。1GHzまでのクロック信号を使った実験では、出力のアイ・パターンや周波数分布に異常は見られなかった。ECLinPSシリーズの標準論理ICは、超高速で動作するのでボード設計には注意が必要だ。回路の入出力は必ず50Ωで終端し、配線は最短距離で行う。それぞれのICには個別にバイパス・コンデンサーを接続する。
雑音源には、脚注4の参考文献の回路を使うことができる。雑音源の出力電圧は100mVrms〜1Vrms程度が必要。さらに、雑音源の周波数分布は少なくともクロック周波数まで必要になる。
*1)High Performance ECL Data、Motorola、1995.
*2)フリップフロップ回路のノードが、長期間、しきい値付近の電位にとどまってしまう現象。メタステーブル状態が発生すると、誤作動が起こるだけでなく、素子が劣化する原因にもなる。
*3)Metastability and the EC LinPS Family, Motorola Application Note AN1504.
*4)Sliwczynski、Lukasw、"Zener diode and MMICs produce true broadband noise,"EDN、p.158、Oct.14,1999.
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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