高速で高精度のLED駆動回路:Design Ideas ディスプレイとドライバ
安定な電流をスイッチングすることで光強度の安定したパルス光を得るLED駆動回路を紹介する。
濁度/濃度測定といった用途では、光強度が安定したパルス光源が必要だ。図1は、生物学実験において網膜神経細胞に光を当てる用途に向けたLED駆動回路である。LEDは供給電流が一定ならば、安定した光強度が得られる。このため濁度/濃度測定の用途には、安定な電流をスイッチングすることでパルス光を得る方法が適している。
3つのブロックで構成した回路
図1の回路で得られるLED駆動用パルス電流は、立ち上がり/降下時間ともに500ns以下と短く、オーバーシュートは7%以下と小さい。ポテンショメーターをD-A変換器で置き換えれば、電流値をプログラムできる。
回路は3つのブロックで構成した。1つは電流値を変えられる安定化電流源(IC1とQ2で構成)。2つ目は、オーバードライブをかけた差動増幅器(Q3とQ4で構成)である。これはスイッチとして機能する。3つ目はレベルシフター(Q1)である。これは、TTLレベルの入力信号を差動ペアの駆動に必要なレベルに変換する役目を果たす。
R6の接触子電圧は、オペアンプのフィードバック回路があるため、R9の端子電圧と等しい値になる。トランジスタQ2は電流増幅率(α)が高い。従って、R9に流れ込むエミッタ電流の大部分はQ2のコレクタ電流が占めることになる。一般に電流増幅率は温度変化がほとんどない。このためQ2のコレクタ電流は常に安定している。
帯域幅が狭いオペアンプを使用可能
トランジスタQ3とQ4は差動ペアを構成する。どちらかのトランジスタが導通状態になると、Q2のコレクタへの電流供給が始まる。Q3のベース電圧がQ4のベース電圧よりも百数十mV高くなると、Q2からの電流はQ3の5V電源に分路(シャント)される。Q4には電流は流れない。このためLEDはオフになる。一方、Q3のベース電圧がQ4のベース電圧よりも低くなると、Q2からの電流はLEDを介して流れるようになる。
Q3とQ4のベース端子間には大きな差動電圧がかかる。このため「1」か「0」かのスイッチング動作が得られる。Q2と同様にQ4の電流増幅率は高い。このためQ4が導通している際のコレクタ電流では、エミッタ電流の占める割合が大きく、安定している。Q3とQ4の両エミッタが接続されているので、電流源には常に一定の負荷が加わる。このため電流源は連続して動作することが可能だ。従って、帯域幅が狭いオペアンプが使える。
Q1はベース接地型の増幅器である。1000pFのコンデンサーがベース抵抗R4と並列に接続されている以外は、基本的なTTL入力段と同じ方式で接続してある。Q1のベース電圧が2.5Vのため入力信号が2Vを超えるとQ1はオフになり、Q1のコレクタ電圧が十分高くなってもQ3をオンし、Q4とLEDに電流が流れないようにする。
ジャンパー線を使えば、55℃以上の温度でも動作
入力信号が0.4Vよりも低くなると、Q1にエミッタ電圧は十分に低くなり、R4に流れるベース電流が十分に大きくなることでQ1が飽和する。この動作によって、Q3のベース電圧は十分に低い値に保持される。従ってQ2のコレクタ電流が全て、Q4とLEDに流れ込む。入力信号が再び増加すると、C3に蓄えられたエネルギーによってQ1のエミッタ‐ベース接合部に逆バイアスがかかり、蓄積された電荷は急速に空乏化する。この結果、短時間のターンオフ動作が可能になる。ただし、Q4の定格電力を超えないように注意する必要がある。電流とコレクタ‐エミッタ間電圧を考慮しなければならない。
トランジスタにはTO-92封止品を、LEDには動作電流が50mAのときの電圧降下が2Vの品種を使う。R12の代わりにジャンパー線を使えば、55℃以上の温度でも動作する。大きなLED駆動電流が必要な場合やトランジスタに小型パッケージ封止品を使いたい場合は、R12に有限値の抵抗を使うことで、Q4の消費電力を安全なレベルまで下げる必要がある。
Design Ideas〜回路設計アイデア集
【アナログ機能回路】:フィルタ回路や発振回路、センサー回路など
【パワー関連と電源】:ノイズの低減手法、保護回路など
【ディスプレイとドライバ】:LEDの制御、活用法など
【計測とテスト】:簡易テスターの設計例、旧式の計測装置の有効な活用法など
【信号源とパルス処理】:その他のユニークな回路
※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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