アナログ技術の継承は難しい:Wired, Weird(4/4 ページ)
今回は、3相モーターのトルク制御をリニアに行うアナログ回路の修理の様子を報告したい。修理依頼主への配慮により、詳細は明かせないのだが、アナログエンジニアであれば、恐らく感銘を覚えるであろう素晴らしいアナログ回路だった。
難解ながら、素晴らしい回路
最初この機器を渡された時にこれらの動作を理解するのは、かなり難しかった。もちろん取り扱い説明書も図面もないので基板に実装された部品とパターンから回路図を作成した。作成した回路図を無償で依頼先へ提示したが、残念ながら依頼主の担当者はこの回路図を理解できなかった。残念ながら、依頼主の機密保持のためこの回路図を開示することはできないが、アナログ回路が好きな読者がもしこの回路図を見たならば、確実に感銘を覚えるであろう、素晴らしい回路だった。
単純な故障原因を処置
さて、修理に戻るがモーターが動作しなかった理由は単純だった。磁気センサーへ供給するクロック波形が小さくなっていたため、磁気センサーの入力信号が小さくなってトライアックがオンしていなかったのだ。クロックの発振周波数を調整するペイントロックされた可変抵抗を調整して出力を最大にすることで、機器が正常に動作するようになった。
気になる点がもう1つあった。それはオペアンプのスルーレートが低くクロック波形が台形になっていたことだ。スルーレートが高いオペアンプに交換すれば、クロック波形が矩形(くけい)になり近接センサーへ供給する電力が大きくなって金属板が検知しやすくなる。依頼主へはオシロスコープでクロックの波形を観測し、最大になるように四角のボリュームを調整すれば良いと説明した。
ぜひ、アナログ技術の伝承を
依頼先では、この基板を設計したエンジニアは高齢になって退職し、回路技術が継承されていなかった。若い回路設計エンジニアにこの回路を理解しろというのは無理かもしれない。まして、UJTやトライアックを使った経験がある人は皆無だろう。しかし古い機器の技術が継承されないと機器が故障したときに設備が止まってしまうことがある。
アナログ回路技術は、文章化して残しておきにくい。技術の継承は、非常に頭を悩ませる重要な問題だ。
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