データのバックアップと保持のための電源ホールドアップ:クイックスタートガイド(2/2 ページ)
データの損失を防ぐため、最新のデジタルシステムには停電時にバックアップを行う機能が欠かせない。その際に重要なのが、入力がなくても出力が維持される時間(ホールドアップ時間)だ。今回の記事では、3つの簡単な電源ホールドアップ解決策を紹介する。
昇圧ホールドアップ解決策
(スーパーコンデンサーより)はるかに低価格ではあるが、両端間の電圧は大幅に高い電解コンデンサーまたはハイブリッド蓄積コンデンサーを使用する解決策の例を図2に示します。このバックアップ解決策では、「LTC3643」に焦点を当てています。入力が加わっている場合、このレギュレーターは入力電圧を最大40Vまで昇圧します。入力が遮断されると、LTC3643は降圧レギュレーターとして動作し、蓄積コンデンサーの電荷を負荷に放電しますが、設定電圧レベルを維持します。前述したスーパーコンデンサー解決策で説明した抵抗分割器には、この場合にも同じ機能があります。
前述したスーパーコンデンサー解決策と、この高電圧解決策は、どちらも入力電流を事前設定値以下に維持するために、蓄積コンデンサーの充電時間中はコンデンサーの充電電流を低減して、負荷の需要を優先させることができます。これが特に重要なのは、比較的入力インピーダンスが高いシステム(バッテリー駆動システムなど)や、低消費電力のAC-DCコンバーターまたはDC-DCコンバーターを電源とするシステムです。LTC3110のスーパーコンデンサー解決策では、この機能はRPRによって実現されます。LTC3643の高電圧解決策では、電流検出抵抗RSによって実現します。
最小限の部品、「廉価版」のホールドアップ解決策
必要なホールドアップ時間が比較的短いコスト重視のプロジェクトの場合、図3に示す解決策では、最小限の部品コストと引き換えにホールドアップ時間が短くなります。この解決策は「LTC3946」を中心に据えており、通常は降圧コンバーターとして動作します。ただし、ここで入力電圧が遮断されると、LTC3946は昇圧変換に切り替わります。LTC3649は、デバイス自体の出力コンデンサーを放電することにより、限界負荷の端子での設定電圧を維持します。
まとめ
ここに示す解決策は、DC-DC電源ホールドアップシステムに主眼を置いており、広範囲の入力電圧をカバーしています。LTC3110の場合は1.8〜5.5V、LTC3643の場合は3〜17V、LTC3649の場合は3.1〜60Vです。入力電源が停電した場合でもデータのバックアップが必要な自動車用および産業用アプリケーションで、3つの解決策は全て正常に使用できます。
【著:Victor Khasiev/Linear Technology(リニア・テクノロジー)パワー製品 シニア・アプリケーション・エンジニア】
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