二次物理解析 ―― PVCチェッカーと断面図解析:マイコン講座 不良解析編(3)(4/4 ページ)
今回は「二次物理解析」であるPVCチェッカーと断面図解析(クロスセクション)を解説していく。また、主にマイコン製品の開発現場で用いられる不良解析手法であるEBテスター、FIBも参考情報として紹介する。
FIB(集束イオンビームFocused Ion Beam)
プリント基板上に電気回路を形成する場合、もし配線ミスなどが判明すると、物理的に配線を切ったり、つないだりして修復することは容易である。しかし、マイコンのようにシリコン上に、イオンを注入(Implantation)したり、メタルを蒸着(Vapor deposition)したりして形成された電気回路ではそうはいかない。マイコンの電気回路を物理的に変更することは至難の業である。
ところが、FIBを用いると、ある程度の修正であれば可能である。電気回路上に不良を見つけた時にFIBを使って、回路変更を行い、不良回路を修復した上で、正常動作を確認することが可能だ。
FIBとは、集束されたイオンをビーム状にして、マイコンの表面に当てる装置である。イオンビームにより表面の原子をはじきとばして、削ったり、穴を空けたりできる。また、低エネルギーのイオンビームにすると、イオンが当った場所にメタル(Pt、Wなど)を付着させ、「蒸着」と同じ効果を得ることができる。すなわちプリント基板上の回路の修正と同じように、マイコンの電気回路の配線を切ったり、つないだりできる。
図6にメタル層が断線して、それを修復する手順を簡単に示す。断線しているメタル層まで穴を掘って、そこにメタルを埋めこめば、埋め込んだメタルが断線を修復して、正常配線に戻せる。
さらにFIBはイオンビームを当てる面積を変えられるので、比較的広い範囲でメタルを堆積させると、観測用のパッドが出来上がり、EBテスターなどで、論理動作を確認する際に、内側の配線も最上部まで引き出せて、便利である。
FIBでチェックする内容
マイコンの電気回路上の不良箇所を修復して、正常動作に戻るか確認する。
また、内側の配線を表面まで引き出し、EBテスターなどのための観測パッドを形成する。
【不良解析編 終わり】
筆者プロフィール
菅井 賢(すがい まさる)
(STマイクロエレクトロニクス マイクロコントローラ製品部 アプリケーション・マネージャー)
日系半導体メーカーにて、25年以上にわたりマイコンの設計業務に携わる。その後、STマイクロエレクトロニクスに入社し、現在までARM Cortex-Mプロセッサを搭載したSTM32ファミリの技術サポート業務に従事。ARMマイコン以外にも精通しており、一般的な4ビットマイコンから32ビットマイコンまで幅広い知識を有する。業務の傍らマイコンに関する技術論文や記事の執筆を行っており、複雑な技術を誰にでも分かりやすい文章で解説することがモットー。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 電気的不良位置特定解析とSEM/SAM観察の基礎
マイコンメーカーが作成する「不良解析レポート」を理解するために必要な基礎知識の習得を目指す連載「マイコン講座 不良解析編」。今回は、不良位置を特定する解析について紹介していく。 - 不良解析レポートを理解するための基礎知識 ―― 一次物理解析&電気的特性評価
マイコンをより深く知ることを目指す新連載「マイコン講座」。今回から3回にわたって、マイコンメーカーが行っている「不良解析」を取り上げる。メーカーから送られてくる不良解析レポートの内容を理解するための、不良解析に関する基礎知識を紹介していく。 - 高耐圧パワーデバイスの測定技術
電動自動車や太陽光発電システムなど、高電圧での電力変換を要する機器の市場が拡大している。そうした機器で設計上の重要な構成要素となるのが高耐圧のパワーデバイスである。そして、最先端のパワーデバイスでは、高耐圧/低オン抵抗という特徴を持つ基本性能を評価することが非常に重要な作業となってきている。そこで本稿では、パワーデバイスの測定を円滑に行うためのノウハウを詳細に解説する。 - リフローのプロセスを理解すれば、実装不良は防げる!
チップ部品の搭載数が増えるに従って、実装不良は増加する。だがチップ部品の実装プロセスを理解すれば、多くの不良は防ぐことができる。今回はSMDのチップコンデンサやSMTリレーの実装不具合例について説明する。 - 「壊れない電子部品」という迷信
フォトカプラは、初期不良と経年劣化以外の要因で不具合を起こすことがないと信じられている。しかし筆者は、この“壊れるはずがない電子部品”に起因する製品の不具合を何度か体験している。最近になって、その不具合発生プロセスを解明できたので紹介しよう。 - SPICE応用設計(その5):不良率0とW.C.解析
今回から2回にわたって、これまで説明してきました「モンテカルロ解析」を補完し、併用する「ワーストケース解析」について説明します。