カレントミラーを使って定電位差出力を得る:Design Ideas パワー関連と電源
昇圧型DC-DCコンバーター回路にカレントミラー回路を組み合わせると、入力電圧と出力電圧の電位差を常に一定に保つ電源回路を実現できる。この回路は、電力変換回路におけるハイサイド駆動回路の電源や、PWM(パルス幅変調)コントローラーへの入力電圧がそのままでは低過ぎる場合でのスイッチング電源の前段としても利用価値が高い。
昇圧型DC-DCコンバーター回路とカレントミラー回路で定電位差出力回路を構成
標準的な昇圧型DC-DCコンバーター回路にカレントミラー回路*1)を組み合わせると、入力電圧と出力電圧の電位差を常に一定に保つ電源回路を実現できる(図1)。電力変換回路におけるハイサイド駆動回路の電源として利用可能だ。入力電圧の変動が大きい場合や、単純な電圧ダブラーを使うと部品の耐電圧を超えてしまう場合などに適している。このほか、スイッチング電源の前段としても利用価値が高い。PWM(パルス幅変調)コントローラーへの入力電圧がそのままでは低過ぎる場合である。今回の定電位差出力回路を使えば、PWMコントローラーが正常に動作する電圧まで高められる。
*1):定電流回路の一種。入力側トランジスタに流れる電流と同じ向きの電流が、鏡に映したように出力側トランジスタに現れる。出力側トランジスタの電流の大きさは入力側トランジスタの電流値を一定の倍率で増幅した値になる。
図1では入力電圧(VIN)と出力電圧(VOUT)の電位差を10Vに設定した。この入出力電位差は容易に変更できるため、同じ入力電圧で出力電圧を24V以外に設定することも可能である。なおこの回路例では、DC-DCコンバーターICとして「CS5171」(IC1)を採用した。実際には必ずしもこのICを使う必要はない。ほかの昇圧型DC-DCコンバーターICと組み合わせても、定電位差出力が得られる。
カレントミラー回路は、2個のpnp型トランジスタを1パッケージに封止したデュアルpnp型トランジスタQ1と、Q1に接続した抵抗で構成する。このカレント・ミラー回路を使って、VINとVOUTの電位差に依存した電流を生成する。出力側トランジスタ(Q1B)に流れる電流を抵抗で電圧値に変換し、その電圧をDC-DCコンバーターICへのフィードバック電圧端子(VFBピン)に印加することで入出力電位差を一定に保つ仕組みである。なお今回はQ1として「BC856BDW1T1」を採用した。コレクタ-エミッタ間耐圧(VCEO)は65Vである。
カレントミラー回路の抵抗値は次のように選べばよい。最初に入力側トランジスタ(Q1A)に付加する抵抗(R2)の値から計算する。図1ではVINとして14Vを印加するため、入出力電位差が10Vのとき、VOUTには24Vの出力が現れる。従ってこのときカレントミラー回路に流れる基準電流を1mAに設定すると、R2の値は次式から求められる。
実際にこうした電源回路を使う用途では、出力電圧の絶対値をそれほど厳密に設定する必要がない。このため今回はR2として10kΩを用いた。9.4kΩよりも容易に入手できる。
次に出力側トランジスタ(Q1B)に接続する抵抗(R3、R4)の値を、次の2つの条件から求める。すなわちIC1が内蔵する内部基準電圧が1.28V(標準値)であることと、電位差が10VのときQ1Bに流れる電流をQ1Aと同様に1mAにすることである。まずR3は、1mAの電流が流れたときに1.28V程度の電圧が出力される値を選ぶ。今回は1.27kΩを選択した。R4は(R3+R4)の値がR2にほぼ等しくなるように選ぶ。今回は8.2kΩとした。このR4はQ1Bにおける消費電力を低減する役割も果たす。
回路への入力電圧が変動すると、カレントミラー回路が出力電圧をその変動分だけ変化させ、入出力電位差を常に10Vに保持する。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事から200本を厳選し、5つのカテゴリーに分けて収録した。
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