高速GaNトランジスタ、最適な測定方法とは:次世代パワーデバイス(3/3 ページ)
GaNトランジスタの出現がもたらしたスイッチング速度の高速化に伴って、優れた測定技術、それとともに高速波形の重要特性を細部まで把握する技術が不可欠になっている。本稿では、測定機器をどのように活用すれば、ユーザーの要求条件および測定技術に適合し、高性能GaNトランジスタを正確に評価することができるかを考察する。
重要なプロービング技術
ここからは、高精細で正確な波形を生成するための適切なプローブ使用法および測定ポイント選択が、いかに重要かを示す。
1.入力キャパシタンスの低いプローブを使用し、グラウンド線を極力短くすること
パッシブプローブ(Tektronixの「TPP 1000」)には、アリゲータクリップとスプリングクリップ[5]という、2種類のグラウンド接続型式が使われている(図3)。
グラウンド接続リード線が長いと、1箇所でグラウンド接続し、そのグラウンドリード線が届く範囲でテストポイントを移動できる点が便利だ。ただし、リード線の各部分には分布インダクタンスが存在する。分布インダクタンスは、信号周波数が高くなるにつれてAC電流の流れを妨害するようになる。グラウンドリード線のインダクタンスは、プローブの入力キャパシタンスと相互作用し、一定の周波数でリンギングを引き起こす(式(2)参照)。このリンギングは不可避であり、振幅が徐々に減衰する正弦波状になる。グラウンドリード線が長くなると、インダクタンスが増大し、測定信号は、より低い周波数でリンギングするようになる。
ここで取り上げる測定技術は、EPC9080ハーフブリッジ評価ボードの使用を前提とする。スイッチノード波形は図3に示した2つのポイントで測定する。「Near Point」と「Far Point」だ。Near PointはFETのスイッチノードに近接し、Far PointはPCB周辺の端子列である。測定ポイントとプローブ技術の各組み合わせで測定したスイッチノード波形(VSW)を図4に示す。
図4の測定波形を見れば、測定点の選択よりもプローブ技術がきいているのは明白だ。赤と黒の波形は、わずかな減衰はあるが、ほぼ同一である。アリゲータクリップを使用した時の波形は、測定ポイントにかかわらず、不正確だ。スプリングクリップ技術を、パワーデバイス近傍の測定ポイント(Near Point)と組み合わせて使うことを推奨したい。
2.非接地高周波測定では絶縁測定システムを使用する
差動測定は、2箇所の測定ポイント間での測定を表しますが、この用語はほとんどの場合、グラウンドを基準としないテストポイントが含まれる測定を表現するものとして使われる。以下は、差動信号測定の一般的な方法だ。
(a)2本のシングルエンドプローブおよび差動測定のためのオシロスコープ演算を使用
(b)高帯域幅、高電圧差動プローブを使用
(c)絶縁測定ソリューション[6]を使用
オシロスコープの演算機能を使用する方法を最初に検討する。対象とするテストポイント2箇所の電圧を、2本のグラウンド基準プローブで測定する。その結果を受け、演算機能が2つの電圧波形の差動波形を生成する。差動演算波形が、疑似的な差動測定となる。
性能に限界はあるが、この技術は周波数が比較的低く、コモンモード信号が小さい場合の測定に適している。正確な動作を得るには、両方の入力が同じスケールファクタに設定され、両方のプローブが同一モデルでよくマッチングしていなければならない。
プローブの減衰/ゲインがわずかでも違うと、伝搬遅延および中間周波数域と高周波数域の応答の影響で測定の正確さが損なわれる。コモンモード除去比(CMRR)は、高周波数域になると極度に悪くなり、高いコモンモード信号がオシロスコープ入力に重畳することになる。
正確な差動測定のために最も望ましい方法は、Tektronix「IsoVu」測定システムなどの高性能な絶縁式測定ソリューションを使用することだ。高コモンモード電圧と高速エッジ速度を有するハーフブリッジなどの回路において、ハイサイドのゲート‐ソース間電圧などの信号を測定することは、高周波数域で優れたCMRRがなければ不可能だ。従来の差動プローブは、数メガヘルツまでの低周波数域では比較的良好なCMRRが得られるが、その数値は、数メガヘルツを超えると大幅に劣化する。絶縁式システムならば、高周波数域で高いCMRRを得られる。
EPC9080ボードのハイサイドのゲート-ソース間電圧(VGS1)における、オシロスコープでの測定結果と、絶縁測定システムでの測定結果の差を図5に示す。
回路に電圧と電流が供給されると、高レベルのスイッチングノイズが発生し、測定ごとの差が拡大することになる。絶縁プローブを使用すると、その高いCMRRの効果により、取得波形がはるかにクリーンになる。
本稿では、各種のEPC eGaN FETベースのパワーコンバーターを測定する際の課題について、帯域幅、プローブを使用する際のテクニック、そして高帯域幅絶縁式プローブの適切な使用などを考察した。測定対象への要件を十分に理解するとともに、測定技術と測定手法を正しく知ることで、GaNベースの設計を、より最適化できるようになるだろう。
参考文献リスト
[1]A. Lidow, J. Strydom, M. De Rooij and D. Reusch, GaN Transistors for Efficient Power Conversion, Second Edition, Wiley, 2014.
[2]D. Reusch and J. Glaser, DC-DC Converter Handbook, Power Conversion Publications, 2015.
[3]EPC 8009 eGaN FET datasheet.
[4]EPC 2022 eGaN FET datasheet.
[5]Tektronix TPP 0500 and 1000 passive probe: Instruction.
[6]ABC of Probes: A Primer, Tektronix Inc.
[7]TIVM Series IsoVu Measurement System: Users Manual, Tektronix Inc.
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 190億ゲートまで検証できる高速エミュレーター
シノプシスは、エミュレーションシステム「ZeBu Server 4」の一般提供を開始する。ZeBu Fast Emulationアーキテクチャをベースに開発し、エミュレーションチップとして「Xilinx UltraScale FPGA」を搭載している。 - オシロの多彩なトリガ機能を使いこなそう
今日のDSOには、比較的単純なエッジトリガ、もっと複雑なスマートトリガ、そして、さらに高度な拡張トリガが搭載されています。これらマルチトリガの使い方を見ていきましょう。 - 100WのRF電源で1kWのテストを実行
出力1kWで50時間のバーンイン試験を実施するにあたり、手元に100WのRF電力発生器しかない場合がある。そこで、今回は100WのRF電力発生器から1kWを発生する回路を紹介する。 - PCIe Gen4物理層コンプライアンス試験ソフトウェア
テレダイン・レクロイ・ジャパンは、PCI Express 4.0(PCIe Gen4)試験を自動的に実施する物理層コンプライアンス試験ソフトウェア「QPHY-PCIE4-TX-RX」を発表した。PCIe Gen4で要求される16Gバイト/秒(GB/s)のデータレートに対応する。 - Bluetooth meshネットワークの基本概念(前編)
今回の連載では、Bluetooth meshを正しく理解するための基礎講座として、このネットワークトポロジーを支える基本的な概念をはじめ、デバイスの管理やセキュリティについて、4回にわたり解説していきます。 - Bluetooth meshネットワークの基本概念(後編)
Bluetooth meshを正しく理解するための基礎講座。第2回となる今回は、Bluetooth meshのノード間のデータ転送で使われる「メッセージ」や、そのメッセージで使われる「アドレス」について解説します。