絶縁シートの熱履歴が物語る、電源の不良原因:Wired, Weird(3/3 ページ)
DC12V出力のスイッチング電源の修理依頼があった。症状には『DC12V電源が安定しない。電圧が降下する。内部に焼けた痕跡がある』と記載されていた。非常に珍しい部品が焼けたために、不良部品がすぐに特定でき、電源を修理することができた。今回は、電源の絶縁シートの熱履歴で不良箇所を特定できた修理例を紹介する。
コンデンサーを交換し、動作を確認
不良のコンデンサーを外し、手持ちの電解コンデンサー(450V、150μF品)を基板に取り付けた。図5に示す。
修理した電源が正常に動作できるかAC200Vを通電し、無負荷と40W相当の抵抗負荷での出力電圧を確認した。図6に示す。
図6左は無負荷で出力電圧は12.04V。右は40W相当の負荷で出力電圧は12.03Vであり、出力の負荷が大きくなっても出力電圧は安定し、正常に動作していることが分かる。
この修理品のように、一次側の電解コンデンサーの容量がゼロに近くなったスイッチング電源の修理依頼品は非常に珍しい。おそらくこの電解コンデンサーは10年以上の間、装置に内蔵された電源基板の中で黙々と働いていたと思われる。しかし電解コンデンサーはいつかは容量が低下し、出力電圧の低下や変動が発生する。そのため、そのまま放置されてしまうと容量がなくなってしまい、チョークコイルには高周波のスイッチング電流が流れて、チョークコイルが発熱して過熱されて、チョークコイルの下のプラスチック板が変色する。プラスティック板が変色するには、この板の温度は120℃程度の温度に上がり、少し離れたチョークコイルの温度は、おそらく150℃程度まで上がったと思われる。
スイッチング電源を通電しっぱなしだと起こる現象
今回の修理例は熱履歴で不具合原因が特定できた非常に分かりやすい事例だった。このようにスイッチング電源を通電しっぱなしにすると、このような現象が発生する。しかし同じ現象は家庭用に使用されている家電でも起こりうるだろう。家電にもスイッチング電源回路が使用されており10年以上通電して使用すると、電解コンデンサーの容量が低下して今回と同様の故障が出る可能性がある。
なお家庭では『わたほこり』に注意が必要だ。それはいろいろな繊維が絡まり、空間があるので低温で引火することがあるからだ。家庭用の機器では『わたほこり』が電源回路に入り込みやすくチョークコイルが過熱すると『わたほこり』に引火し発煙や火災になることもある。テレビの背面や内部に溜まった『わたほこり』を年に1度は掃除機で吸い出して、清掃した方が良いだろう。
《次の記事を読む》
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- シーケンサー(ジャンク品)を落札、改造してみた
手ごろなシーケンサーを探していたところ、ネットオークションでいくつかの出力接点不良を抱えたジャンク品のシーケンサーを見つけ、早速落札した。そこで、今回はこのジャンク品のシーケンサーを修理、改造した様子を紹介していこう。 - オンラインで電源修理の支援をやってみた
アナログ電子回路技術者向け掲示板サイトに書き込まれた電源修理に関する相談。書き込み主は、修理せざるを得ない切羽詰まった様子だったので、オンラインサイト越しに電源修理を支援してみた。無事に修理できたようだが、危険と隣り合わせであることも学んだ。 - アナログ技術の継承は難しい
今回は、3相モーターのトルク制御をリニアに行うアナログ回路の修理の様子を報告したい。修理依頼主への配慮により、詳細は明かせないのだが、アナログエンジニアであれば、恐らく感銘を覚えるであろう素晴らしいアナログ回路だった。 - アイデア工具を使ったハンダ抜きテクニック
今回は、基板にダメージを与えずにハンダ抜き(ハンダ外し)を行うためのテクニックを紹介する。偶然見つけたアイデアツールなど、筆者が日頃の修理業務で使っているハンダ抜き工具も披露しよう。 - 工具は預けるべし!? 保安検査後に動かなくなった工具の修理
今回は、飛行機に登場する際の保安検査後に動かなくなってしまった修理工具(LED付きルーペとテスター)の修理の様子を紹介する。急いでいるときは、機内に手荷物として持ち込みたいが、やはり預ける方が賢明のようだ――。 - 激安レーザーダイオードでレーザーポインターを作ってみた
今回は安価なレーザーダイオードを使ったレーザーポインターを作ってみたので、その作り方を紹介する。