DC-DCコンバーターの安全性(1) 感電保護:DC-DCコンバーター活用講座(26)(3/5 ページ)
今回からDC-DCコンバーターの安全性に関して説明します。まずは、DC-DCコンバーターの1つの機能である「感電保護」を取り上げます。
人体の電流しきい値
電流の流れが引き起こす損傷の定義は単純ではありません。人体の抵抗は110Vdcで約2kΩで、電圧が高くなるにつれて低下します。しかし、この数値は大きく変動します。皮膚抵抗は内臓の抵抗よりもはるかに大きく、特に乾燥肌の人の抵抗値は最大100kΩになることがあります。全接触、つまり手の全体を標準的な約8cm2の表面領域に接触させた場合の電気抵抗は、例えばわずか0.1cm2の表面領域に指先が触れる部分接触の場合よりも小さくなります。ただし、電流が狭い接触点に集中的に流れて局所焼損を生じる場合や皮膚が湿っている場合、人体内部の抵抗は1kΩ未満になります。さらに、皮膚は帯電した接触点と下層組織間で誘電体のような働きをするため、AC抵抗がDC抵抗よりも小さくなるので、AC電流の方がより危険になります。
電流の流れにより生じる損傷の定義を明確にするために、人を感電させないための電流制限を、DCで2mA、ピークACで0.7mA、または50HzのACで0.5mARMSと定義しています。人体を通る電流のしきい値レベルを表1に示します。
電流の影響 | 電流 | 電気的安全性(HBSE)クラス |
---|---|---|
最小限の反応 | <0.5mA | ES1 |
驚愕反応があるが、損傷なし | 5mAまで | ES2 |
筋肉の収縮があり、放置できない | 10mAまで | ES3 |
心臓の細動、内臓損傷、死亡 | >10mA | |
表1:人体への電流しきい値レベル |
DC-DCコンバーターの出力を設計により60Vdcまたは42.4Vacに制限した場合、このコンバーターの出力を「安全特別低電圧」(SELV:Safety Extra Low Voltage)と言い、出力からの感電への予防策は不要です。このルールの例外として「通信網電圧」(TNV:Telecommunications Network Voltage)限界値があり、その電圧はSELV電圧を超える場合があるものの、継続時間(最大200ミリ秒)で制限され、保護対策を取っていないユーザーは接触できないようにすることが条件になっています。TNV電圧は最大120Vdcまたは71Vacになる可能性があります。SELVまたはTNVより高い出力電圧はすべて危険と見なされるので、偶発的にユーザーが接触しないようにするための予防策をとる必要があります。
SELV限界値未満の回路電圧 | TNV-1 |
---|---|
SELV超TNV限界値未満の回路電圧。入力過電圧なし | TNV-2 |
SELV超TNV限界値未満の回路電圧。入力過渡時に過電圧の可能性あり(最大1.5kVDC) | TNV-3 |
表2:TNVの定義 |
AC電源の電圧が危険電圧に分類されるので、AC-DC電源から給電されるコンバーターの絶縁強度は、故障状態でのこの危険電圧を阻止し、ユーザーを感電から保護するのに十分なものでなければなりません。230Vac電源のピーク電圧は230√2=325Vなので、絶縁定格が500Vdc以上のDC-DCコンバーターが適しています。10年前、このピーク電圧への耐性を備えるために多数のコンバーターが実際に設計され、組み立てられ、テストが行われました。しかし、「仕様の泥沼化」により、現在では最小限の標準絶縁定格が1000Vdcであるのに対し、医療機器は最低でも2000Vdcを必要とし、顧客はしばしば3000Vdc以上を要求します。イオンポンプやIGBT回路を使用するX線装置、レーザー電源、高真空装置など、DC-DCコンバーターの両端に非常に高い電圧が印加されるアプリケーションはあります。しかし、それ以外の場合、大多数のDC-DCコンバーターでは絶縁ギャップの両端に48Vdcを超える電圧が印加されることはありません。
以下の説明は、産業、通信、コンピュータの安全規格に適用されるものです。医療安全規格には追加要件があり、それについては本章の最後で別に取り上げます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.