DC-DCコンバーターの安全性(1) 感電保護:DC-DCコンバーター活用講座(26)(4/5 ページ)
今回からDC-DCコンバーターの安全性に関して説明します。まずは、DC-DCコンバーターの1つの機能である「感電保護」を取り上げます。
感電保護
安全規格では、感電保護に関して次の3つの主要な仕様が考慮されます。
- 絶縁耐力
- 空間距離
- 沿面距離
安全性に関する絶縁耐力テストは、DCまたはACのテスト電圧を使って行います(ピークAC電圧は定常状態のDC電圧に等しい)。この電圧に、絶縁破壊することなく60秒間耐えなければなりません。ACテストの長所は、正負両方の電圧ストレスがコンバーターの両端に印加されることです。短所は、EMCコンデンサーを絶縁バリアの両端に接続した場合、無効AC電流の発生が絶縁破壊と誤解される可能性があることです。迷うときは、DC電圧を使用します。
絶縁グレード | テスト電圧(DC) | テスト電圧(AC) |
---|---|---|
機能 | 1000V/60秒 | 707VACRMS |
基礎 | 1000V/60秒 | 707VACRMS |
強化 | 2000V/60秒 | 1414VACRMS |
表3:DC-DCコンバーターの安全絶縁耐力テスト(医療アプリケーション以外) |
空間距離は、入力側と出力側を「直線で」分離した場合の最小距離です。アーク距離と呼ばれることもあります。沿面距離は、入力側と出力側を表面に沿って分離した場合の最小距離です。トラッキング距離と呼ばれることもあります。図4に、これらの距離をダイヤグラム形式で表します。
安全規格では、最小の空間距離と沿面距離をコンバーター両端の電圧、使用材料、動作環境に基づいて定義しています。
空間距離は、「標高2000m以下の空気中」という基準で定義され、コンバーターの入力電圧と絶縁分類によって異なります。完全に樹脂充填されたDC-DCコンバーターには空気が存在しないので、空間距離は単にコンバーターの入出力端子間の距離になります。オープンフレームのDC-DCコンバーターの場合、内部トランスの巻線分離は空間距離の計算には含まれません。ただし、トランスの一次巻線と二次巻線の端子間の空間距離、または一次巻線と近接する二次巻線側の部品との間の空間距離は、いずれもPCB上での入出力端子間の空間距離より小さい場合に使用されます。
DC(AC)電圧 | |||||||||
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絶縁グレード | 12 (12) |
36 (30) |
75 (60) |
150 (125) |
300 (250) |
450 (400) |
600 (500) |
800 (66) |
VDC (VAC) |
機能 | 0.4 | 0.5 | 0.7 | 1.0 | 1.6 | 2.4 | 3 | 4 | mm |
基礎 | 0.8 | 1 | 1.2 | 1.6 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 6 | mm |
強化 | 1.6 | 2 | 2.4 | 3.2 | 5 | 7 | 9 | 13 | mm |
表4:各種絶縁グレードにおける空気中での最小空間距離 |
最小沿面距離は、動作電圧、使用材料の表面伝導率、汚染度により定義されます。沿面距離は、PCB上の一次配線と二次配線間の最近点で測定されます。
絶縁材I | 600≦CTI |
---|---|
絶縁材II | 400≦CTI<600 |
絶縁材IIIa | 175≦CTI<400 |
絶縁材IIIb | 100≦CTI<175 |
表5:材料クラスの定義 |
比較トラッキング指数(CTI)は、入力と出力を分離する絶縁材料(通常はコンバーターのPCB)の表面伝導率に応じて、沿面距離に1つの要素を追加します。
標準のFR4 PCBボードの一般的なCTIは200〜250で、ハンダの抵抗により400に増加します(クラスIIIa)。ただし、ボードにPTFEコーティングが施されている場合は、CTIが600を超える可能性があります(クラスI)。汚染環境、産業環境、または屋外環境では、比較トラッキング指数(CTI)の変化を補償するために距離を大きくする必要があるので、最小沿面距離の計算時に表面の湿度や汚染物質の要素が、汚染度(PD)により追加されます。
汚染度 | 汚染度1 | 汚染度2 | 汚染度3 | 汚染度4 |
---|---|---|---|---|
環境状態 | 汚損なし、または乾燥した非導電体による汚損のみ。伝導率には影響しない。 | 通常は非導電体による汚損のみ。一時的に結露が生じる可能性がある。 | 導電的汚損と結露が頻繁に発生している。 | 導電的汚損と結露が永続的に発生している。 |
環境例 | 封止された部品 | オフィス環境 | 産業環境 | 屋外環境 |
表6:汚染度 |
下の表7に、動作電圧、材料グループ、汚染度に応じた最小沿面距離を示します。
最小沿面距離 | |||||||
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ピーク 電圧 (V) |
汚染度 | ||||||
1 | 2 | 3 | |||||
全材料 グループ |
材料グループ | ||||||
I | II | III | I | II | III | ||
mm | mm | mm | mm | mm | mm | mm | |
25 | 0.125 | 0.500 | 0.500 | 0.500 | 1.250 | 1.250 | 1.250 |
32 | 0.14 | 0.53 | 0.53 | 0.53 | 1.30 | 1.30 | 1.30 |
40 | 0.16 | 0.56 | 0.80 | 1.10 | 1.40 | 1.60 | 1.80 |
50 | 0.18 | 0.60 | 0.85 | 1.20 | 1.50 | 1.70 | 1.90 |
63 | 0.20 | 0.63 | 0.90 | 1.25 | 1.60 | 1.80 | 2.00 |
80 | 0.22 | 0.67 | 0.95 | 1.30 | 1.70 | 1.90 | 2.10 |
100 | 0.25 | 0.71 | 1.00 | 1.40 | 1.80 | 2.00 | 2.20 |
125 | 0.28 | 0.75 | 1.05 | 1.50 | 1.90 | 2.10 | 2.40 |
160 | 0.32 | 0.80 | 1.10 | 1.60 | 2.00 | 2.20 | 2.50 |
200 | 0.42 | 1.00 | 1.40 | 2.00 | 2.50 | 2.80 | 3.20 |
250 | 0.56 | 1.25 | 1.80 | 2.50 | 3.20 | 3.60 | 4.00 |
320 | 0.75 | 1.60 | 2.20 | 3.20 | 4.00 | 4.50 | 5.00 |
400 | 1.0 | 2.00 | 2.80 | 4.00 | 5.0 | 5.6 | 6.3 |
500 | 1.3 | 2.50 | 3.60 | 5.00 | 6.3 | 7.1 | 8.0 |
630 | 1.8 | 3.20 | 4.50 | 6.30 | 8.0 | 9.0 | 10.0 |
800 | 2.4 | 4.00 | 5.60 | 8.0 | 10.0 | 11.0 | 12.5 |
1000 | 3.2 | 5.00 | 7.10 | 10.0 | 12.5 | 14.0 | 16.0 |
表7:沿面距離 |
ところで、上述の表が実際の要件にどのようにつながるのでしょうか? 通常の動作条件では、動作電圧がコンバーター両端への最大印加電圧なので、公称で48V入力、24V出力の入力電圧範囲2:1のコンバーターは、最大入力電圧72Vに出力電圧24Vを加えた96Vdcの沿面要件を満たす必要があります。したがって、上記の表7では、それに最も近い上の電圧である100Vを使用します(表7のハイライト領域を参照)。
完全に樹脂充塡(じゅうてん)されたDC-DCコンバーターは、ホコリ、湿気、汚染の侵入に対して封止されているので、アプリケーション環境にかかわらずPD1に分類されます。このため、入力配線と出力配線の分離に最小限必要な沿面距離は0.25mmです。コンバーターがオープン・フレーム・デザインの場合、その距離はオフィス環境では1.4mm、産業環境では2.2mmに増加します。オープン・フレーム・コンバーターは屋外アプリケーションには適さないので、最小沿面距離は指定されていません。
戻って表4を参照すると、この埋め込みコンバーターの端子間の最小空間距離は、機能絶縁では1mm、基礎絶縁では1.6mm、強化絶縁では3.2mmになります。実際には、コンバーターをハンダ付けするPCBパッド間の最小距離も考慮に入れる必要があります。その結果、樹脂充填の低電圧DC-DCコンバーターを機能絶縁のコンバーターとして産業環境で使用する場合、入出力間には最小1mmの沿面距離と空間距離が必要です。このとき、沿面距離は必ず空間距離以上になります。オープンフレームの同じ低電圧コンバーターの場合も空間距離が1mm必要ですが、沿面距離は2.2mmに増加します。
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