アルミ電解コンデンサー(2)―― 箔の様子:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(35)(2/3 ページ)
今回はアルミ電解コンデンサーのキーパーツの1つである箔(はく)の様子について詳しく説明していきます。
交流エッチング(耐圧の目安160V以下)
主として面積拡大に重点をおいた方法で低圧箔と呼ばれるものや、耐圧の必要がない集電(陰極)箔に用いられ、硬質または軟質アルミ箔を用います。面積は80〜100倍に拡大されます。
図2は処理の概要ですが図中の値やエッチング液、電流波形などは各社のノウハウにより大幅に変わりますから、あくまでも薬剤や時間単位、化学処理の内容を理解する一例だと考えてください。
前処理 | リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、あるいはケイ酸ナトリウムなどで90℃60秒脱脂および、表面の自然酸化膜を除去 |
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エッチング | 塩酸(5wt%)+塩化アルミ(2wt%)+硫酸(0.1wt%)+リン酸(0.5wt%)+硝酸(0.2%)、30℃で60秒×4回(wt%:重量比) |
後処理 | 硝酸アルミ、亜硝酸アルミ、シュウ酸アルミ、リン酸アルミを硝酸でpH調整し、60〜70℃で2〜3分 |
特にエッチング液中の塩酸濃度はエッチング速度に顕著に影響しますので温度とともに重点管理されます。
通常は厚み40〜110μm、純度99.9%以上の高純度のアルミ箔を用いてエッチング初期には図2(a)のように箔表面に孔を開け、その穴を中心に図2(b)、(c)のように粗面化させていきます。使われる電流波形は図2(d)のような特別な歪電流波形が用いられ、図2(e)のような箔両面に海綿状の構造を持つ電極箔が得られます。
エッチング部分は図2(c)の詳細図から分かるように細かな海綿状の形状になっています。したがって分厚い酸化膜を成長させるだけの空隙はありませんので主として低耐圧の陽極箔や陰極箔に用いられます。
(陰極箔は名前や見かけからコンデンサーの対向電極のイメージを持たれますが実態は集電用の機能的が主です)
図2(d)に示す歪波形の周波数は処理の進行とともに50Hz程度から数Hz程度まで可変制御され、ピーク電流A1は0.1〜0.3A/cm2程度と言われています。(波形は説明用であり、正確ではありません)
直流エッチング(耐圧の目安160V超)
結晶方位をそろえた軟質箔に太い穴径のトンネルピットを深さ方向に整列エッチングさせます。厚い酸化膜を成長させられるので主として高圧箔と呼ばれる陽極箔に用いられます。面積は30〜50倍に拡大されます。
電流の極性は図3(d)に示すようにアルミ箔を正極にした直流エッチングですのでアルミニウムが液中に溶出していきます。ピットは最初にある密度で図3(a)のように分布し、そのピットがある程度成長すると成長が止まって図3(b)のように別のピットが成長します。このような繰り返しで図3(c)のように太いトンネル状のピットが作られていきます。
図3は処理の概要ですがこれらの値や電流波形は交流エッチングと同じく各社で大幅に変わります。
(前処理と後処理は交流エッチングと同様です)
図3(d)の電流波形例Aを用いた定電流エッチングでは0.35A/cm2ほどの電流密度で1分半程度行われます。しかしピットの深さを深くしようとすると中芯部まで成長するピットができてしまって箔強度が著しく低下することにもなりますので実際には各エッチング槽で電流を変えることでエッチング状態をコントロールします。
また、各槽の電極板の対向間隔などを変えることで図3(d)電流波形例Bの波形を採ることもあります。
この場合には開始電流密度A1を3〜6A/cm2と大きく採ることができ、エッチング時間T1を15〜20秒と短くすることができます。
この時の開始電流密度A1はピットの密度に関係し、エッチング時間T1はピット深さのバラツキに影響します。終了時の電流密度A2は0.1A/cm2程度と言われています。
第1エッチング | 硫酸3.5mol/l、塩化アルミ0.50mol/lのエッチング液(80℃)を用いて電流密度150mA/cm2、2分ほどエッチングします。 |
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第2エッチング | 塩酸0.10〜0.60mol/lを主体とした水溶液(70〜90℃)に硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオンおよび、有機酸イオン(シュウ酸イオン、スルホン酸など)を0.005〜0.05mol/l含むエッチング液を用いて電流密度15〜35mA/cm2で行います。 |
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