設計事例で学ぶデルタ-シグマADCでのアンプノイズ影響:アナログ設計のきほん【ADCとノイズ】(7)(4/4 ページ)
高分解能ADCに高ゲインの外部アンプを組み合わせるときは、アンプのノイズ特性を慎重に検討する必要があります。今回は、アンプが異なると同じ高分解能ADCのノイズにどう影響するのか、設計例を用いて分析します。
外部アンプと高精度デルタ-シグマADC
アンプ | ENBW=14Hz(nVRMS)時 の電圧ノイズ |
---|---|
OPA141 | 45 |
OPA211 | 18 |
OPA378 | 76 |
表2に、これまで解析してきた3つのアンプのノイズ特性をまとめました。
これらの外部アンプをADCのベースライン性能と比較するには、データシートの値を用いてADS1262のゲインの関数として入力換算ノイズをプロットします。次に表2の情報を使って、それぞれのアンプをADS1262の入力に付け加え、式1を使ってバイナリゲイン値が512V/Vになるまで入力換算総ノイズをプロットします。外部アンプを使用するときはすべてのケースでADS1262のゲインを1V/Vに設定します。図8はそのプロット図です。
図8からは興味深い結果がいくつか得られます。最初に目に付くのは、ADS1262単体のときと比べて、OPA378とOPA141を使用すると、高ゲインのときでも入力換算総ノイズが実際には増加することです。一方、OPA211では全体的にシステムのノイズが減少します。
それに加えて、図8の曲線はすべて、ある程度のゲインから平らになります。(例えば、OPA378では16V/V、OPA211では64V/V)この転換点が、それ以上ゲインを加えても入力換算ノイズ特性に与える影響が無視できるというゲインリミットとして有効に働きます。(そのため、分解能の観点からは意味がありません)
前回に述べたように、ゲインが増加すると、総合的な入力換算ノイズ式で1段目のゲインが支配的になります(式1を参照)。この時点で、ノイズとゲインの関係は実質的に一定になります。ADS1262単体であっても、32V/Vで内部PGAが主要なノイズ源になり、この現象が起こります。
多くの場合、外部アンプを高分解能デルタ-シグマADCの入力に追加すると、OPA141とOPA378の場合と同じく、実際にノイズ特性に悪影響があります。これは、ADCのメーカーがデルタ-シグマADCを(該当する場合は内蔵PGAも)、比較的狭い入力信号の範囲内で正確性と精度が最適になるようにしているからです。しかし、この記事でこれまで説明してきたような高精度アンプであっても、入力信号がかなり広範囲であると見込む必要があり、そのため同程度の性能を達成するのがさらに困難になります。
外部アンプにより実際にノイズ特性が向上する場合でも、図8で示したように限度があります。さらに、外部アンプを追加することで、オフセットやゲイン誤差やドリフトなどのその他のシステム性能指標に影響する可能性があります。他にも、コストや消費電力が上昇したり必要な基板面積が増えたりするかもしれません。
最終的に、高分解能デルタ-シグマADCを使用するときには、シグナルチェーンにおけるアンプの目的を慎重に検討することが重要です。場合によっては高電圧入力を減衰するなどのためにアンプが必要になるかもしれません。しかし、設計をうまく行うにはシステムノイズに与える影響を理解することが不可欠です。
次回は、シグナルチェーンに与えるリファレンス電圧ノイズの影響について説明します。
重要なポイント
以下は、アンプのノイズがデルタ-シグマADCに与える影響をよりよく理解するうえで重要なポイントをまとめたものです。
- 総合的なアンプノイズの確定方法を理解する
- ソースの出力が高インピーダンスの場合は電流ノイズの影響を考慮する
- 内蔵PGAの利点
- データ収集システムを設計する際に必要な計算が少なくて済む
- 分解能と精度が最適化されている
- ゲインが高いと必ず分解能が増えるとは限らない。使用するアンプ、ADCおよび、システムのENBWに依存する
- アンプは、ノイズに加えてその他の性能指標にも影響する場合がある(オフセット、ドリフトなど)
著者紹介
ブライアン・リゾン(Bryan Lizon)
テキサス・インスツルメンツ 高精度ADC製品プロダクト・マーケティング・エンジニア
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