高速信号の伝搬と特性インピーダンス:高速シリアル伝送技術講座(13)(1/3 ページ)
これまで、伝送路設計の基本については説明を行いました。今回は、より高速な数十ビット/秒(Gbps)の伝送路設計で重要な特性インピーダンスについて説明していきます。
第6回と第7回では伝送路設計の基本について説明を行いました。今回は信号が高速に伝搬する仕組みと特性インピーダンスについて説明していきます。
プリント配線板(以下、PCB)上のマイクロストリップラインやストリップライン、銅線ケーブルでは図1のように伝送路の特性インピーダンスに合わせた終端抵抗を使用し、終端部での信号反射を防いでいます。
しかし特性インピーダンスはテスターでDC抵抗を測定しても100Ωなどと表示されません。
それでは信号伝送と伝送路の特性インピーダンスはどのような関係で、また特性インピーダンスとはどのような仕組みなのでしょうか?
古典力学での導体中の電流速度と実際
高速の信号伝送では、伝送路の指定の特性インピーダンスの環境で信号を正しく伝達することができます。伝送路の銅線などの導体内部に電流が流れて信号が伝っていると仮定すると、その電流の伝搬速度はどの程度か、まず古典物理学の考え方で計算していきます。
導体に流れる電流AはA=C/s(C:クーロン、s:時間)で表され、1秒間で電気量1C(クーロン)の電荷が流れていれば1Aの電流になるという簡単な定義です。図2左のように電流は電池から銅線導体の内部を伝わり、負荷に到達すると熱等に消費されるというイメージです。
電流の流れは導体中の自由電子である負電荷の移動そのもので、図2右のように負電荷−qが移動すると電流はその逆方向に流れると定義しています。負電荷−qが導体の単位体積あたりn個、導体の断面積をS、負電荷−qの平均移動速度vとしておおよその電流の移動速度を計算できます。
断面積Sを移動速度vで1秒間に通り抜ける電荷の総数は、断面積×移動速度の体積Svとその中に含まれる単位体積当たりの電荷数のnを掛けてnSv個となります。1秒でS平面を通過する総電荷量はこれに−qを掛けて−qnSvです。電流値Iは−q負電荷と逆方向のためマイナスが消えてI=qnSvとなります。
それぞれの条件を、電流値:1.36A、断面積S:1mm2、n:(銅線)8.5×1028 /m3 個、
q:1.6×10-19クーロンとすると、
式1の結果では銅線内部の電荷の平均移動速度すなわち電流の速度はわずか秒速0.1mm/sとなり、1分間で6mmと非常にゆっくりです。また式1では電流Iが増えると電流の速度vも比例して増加しています。ところが実際は図2左の電池に銅線を介して電球に接続した場合は電流値によらず一瞬で点灯し、モーターを接続するとすぐに回転します。そのため実際の現象と合わず、過去には導体中の自由電子である負電荷をマクロな物質の束として、“ところてん”が押し出されるように伝わるなどの推論もありました。
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