高速信号の伝搬と特性インピーダンス:高速シリアル伝送技術講座(13)(2/3 ページ)
これまで、伝送路設計の基本については説明を行いました。今回は、より高速な数十ビット/秒(Gbps)の伝送路設計で重要な特性インピーダンスについて説明していきます。
実際の信号の伝搬速度と電場・磁場の関係
高周波の信号伝送に使用する同軸ケーブル、PCBのマイクロストリップライン・ストリップライン、差動ケーブルは空間の電磁場の伝搬と同じ図3のようなTEM(Transverse Electromagnetic)modeや準TEM modeと呼ばれる、電場と磁場が進行方向に対して横方向(Transverse)でかつ電場と磁場がそれぞれ直交する環境で信号が伝搬しています。
高周波の信号伝送で使用される伝送路はこのTEM modeや準TEM modeで信号が伝わり、図4の同軸ケーブルやPCB伝送路のシングルエンド信号ではGNDと信号線、2対並行線ケーブルを使用した差動信号ではペアの2線間に進行方向に対して横方向かつ、おのおの直交する電場Eと磁場Hが発生し、信号が伝搬します。
第4回の「電界と磁界 なぜ信号は高速で伝達するのか」で電流の流れる方向と同じエネルギーの流れを示す電磁ペクトルポテンシャル(図5左)や空間に電場(電界)Eと直交する磁場(磁界)Hが発生する環境で、その外積方向のB×H(×は外積)にエネルギー(信号)が伝搬する「ポインティングの定理」を説明しました(図5右)。
また第4回の「伝搬速度の実験」では、誘電体が空気(εr≒1)の場合、伝搬速度はほぼ光速、誘電体が比誘電率(εr=2.3)のポリエチレンでは光速の約66%になり、これは式2の計算と同じ結果でした。以上のことから、高速の信号エネルギーは導体内部に流れるのではなく、導体表面を使用し外部の空間で伝搬している事が予想できるのではないでしょうか?
電場・磁場と特性インピーダンス
伝送路で発生するTEM波の電場Eと磁場Hの大きさ(絶対値)の比率を電磁気学では特性インピーダンスと定義しています(式3)。波動インピーダンスや輻射インピーダンスとも言いますが同じ意味です。
特性インピーダンスは図4の伝送路の空間で発生するTEM波/準TEM波での電場Eと磁場Hの比率ですが、電場Eの単位面積あたりの面密度を電束密度、磁場Hの単位面積あたりの面密度を磁束密度と呼んでいます。空間が真空の場合、真空の誘電率ε0、真空の透磁率μ0を使用し式4で表します。
空間が真空の場合の電場Eと磁場Hの比率である特性インピーダンスは上記の誘電率と透磁率を使用しても式5のように表すことができます。
空間媒体が真空の場合、式5に数値を代入し空間の特性インピーダンスを計算するとZ=376.8Ωとなります(式6)。これを真空の固有インピーダンと呼んでいます。
空間が真空でなくある物質で満たされている場合は、ε0に物質の比誘電率(εr)、μ0に物質の比透磁率(μr)をかけ合わせると、その物質で満たされた状態の特性インピーダンスが求められます。
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