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アルミ電解コンデンサー(8)―― 市場不良と四級塩問題中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(41)(4/4 ページ)

今回は湿式アルミ電解コンデンサーの残った課題として四級塩*問題を取り上げたいと思います。四級塩問題については現象の説明だけの資料が多く、そのメカニズムについては納得できる技術資料がほとんどありません。本稿では筆者が納得しているメカニズムを1つの説として説明をしていきます。

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四級塩とは何か

 ここまで頻繁に「四級塩」という用語を説明もせずに使用してきましたが、そもそも四級塩とはどのような物質で「級」とは何を表しているのでしょうか?

四級塩とは


表2:各アミンの分子構造

 第四級アンモニウムカチオン(quaternary ammonium cation)は分子式NR4と表される正電荷を持った多原子イオンである。
 Rはアルキル基アリール基を指す。アンモニウムイオン NH4や第一級・第二級・第三級アンモニウムカチオンとは違い、第四級アンモニウムカチオンは常に帯電していて、溶液のpHに左右されない。
 第四級アンモニウム塩や第四級アンモニウム化合物は第四級アンモニウムカチオンとほかのアニオンとの塩である。
(出典:Wikipedia 2019年10月7日(月)13:39)

 電解コンデンサーの液漏れとしての四級塩とは正しくは第四級アルキルアンモニウム塩のことですからアンモニア*を例にした表2を使って用語を説明します。

【アミン(amine)】
 アンモニア(NH3)の水素原子(H)を炭化水素基などで置換した化合物の総称です。置換した数によって第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンと呼びます。第〇級アンモニウム塩とはこれらのアミンのクラスに従って分類された塩(化合物)です。

 ただし、第三級アミンにさらにアルキル基を結合させた第四級アミンは中心元素の窒素Nの原子価(3)を超えて置換基が付いている(配位結合)ために正に帯電しますので第四級アンモニウムカチオンと呼ばれる時があります。
 このように第四級アミンは常に正に帯電していますので活性が高く低ESR化しやすいのですが、反面水酸化物イオン(OH)などの陰イオンと結合しやすくなります。
近年では第四級アンモニウム塩を「四級塩」と略す風潮が見受けられますが母体化合物が分からなくなりますので断りなく略すのは好ましくないでしょう。

*アンモニアNH3はOHを含みませんが水と反応してNH3+H2O→NH4+OHとなるので1価の塩基です。
また、水素は酸化(電子供給)剤として働くとともに還元(電子受容)剤としても働くことができるので化学式ではHClやCH3のように原子の前や後に付くことができます。

【アルキル基(alkyl radical)】
 一般式CnH2n+2で表される鎖式飽和炭化水素(アルカンalkane)の一価の置換基をアルキル基と言います。(2中の赤四角枠内)

  • メチル基(メタンCH4からHを取ったもの)
  • エチル基(エタンCH3-CH3からHを取ったもの)
  • プロピル基(プロパンCH3-CH2-CH3からHを取ったもの)など(図3

図3:アルキル基の構造式

【アリール基】
 芳香族炭化水素から誘導された官能(機能)基または置換基を示す“aryl-group”で、フェニル基(ベンゼン)、トリル基(トルエン)、キシリル基(キシレン)などが挙げられます。
カッコ内は母体化合物

類似用語のアリル基は構造式がCH2=CH-CH2と表される一価の置換基の“allyl group”です。
-ryl-と-llyl-の違いを日本語表記する術がないのでこのようなのばし音の違いで表記しています。


 今回は以前から疑問に思っていたアルミ電解コンデンサーの不良問題について筆者の考えを1つの説として述べさせていただきました。長くなりましたがアルミ電解コンデンサーの解説は今回で終わり、次回はアルミ電解コンデンサーの派生商品である機能性高分子アルミ電解キャパシターについて考えます。


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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