導電性高分子アルミ電解キャパシター(2)―― 特徴と使用上の注意:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(43)(2/2 ページ)
今回は導電性高分子キャパシターの特徴的な特性とその特徴に起因する使用上の注意点などを説明していきます。
導電性高分子キャパシターを用いた場合の制御ループの位相特性の変化
図2に電源の電圧検出回路の抜粋を示します。
図2(b)の等価回路に基づいてOUTPUT端子から制御信号までの伝達関数T(ω)を求めます。
1式のポール周波数(分母の時定数)f1は
同じくゼロ周波数(分子の時定数)fHは
1式から3式の利得(黒)や位相の様子(赤)をグラフにしたものが図3です。図3において
FH1:従来の湿式アルミ電解コンデンサーのfH
FH2:導電性高分子キャパシターのfH
です。
また位相回転の様子を表すパラメーターKとしてf1とfHとの比率を採ると
となります。通常、RdはESRに比べて1桁以上大きいのでKはESRが支配的になり、ESRが小さくなるほどKは大きくなって位相も90度遅れに近づいていきます。
導電性高分子キャパシターのESRの値は図1に示した周波数特性からも分かるように湿式アルミ電解コンデンサーに比べて1.5〜2桁程度小さくなっていますのでゼロ周波数fH2も2桁程度高域へ移動しています。
この結果、検出信号の高域での位相回転の様子も変わってきて、従来の湿式アルミ電解コンデンサーから高分子キャパシターに置き換えた場合に異常発振を引き起こす可能性が出てきます。この現象は制御系の元々の安定度(位相余裕)にも関係しますので個別に確認が必要です。
また、この現象は分かりやすく言えば次のように考えることもできます。
キャパシターが高周波領域まで理想的なキャパシタンスとして動作するために、出力電圧のリップル中の高周波成分は減少します。
この結果、負帰還信号として利用できる高周波信号の成分も同時に減少するので制御系の高周波領域の利得が増加して不安定になる。
次回は表1に示したリーク電流特性の発生原因を製造工程に基づいて考えるとともに対策などを考えたいと思います。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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