SiCパワーMOSFETのデバイスモデル、オン時の容量考慮で精度が大幅向上:SiC採用のための電源回路シミュレーション(1)(4/5 ページ)
スイッチング動作が極めて高速なSiCパワーMOSFETを用いた電源回路設計では、回路シミュレーションの必要性に迫られることになるが、従来のモデリング手法を用いたデバイスモデルでは精度面で課題があった。本連載では、この課題解決に向けた技術や手法について紹介する。
変換効率も測定結果と一致
そこで新しいSiCパワーMOSFETのモデリング手法では、オフ時の容量に加えて、オン時の容量も測定して考慮することに変更した。オン時の容量の測定はオフ時の容量と異なり、ネットワークアナライザーを使ってSパラメーターを測定することで求める。ただし、測定の際には、SiCパワーMOSFETのゲートとドレインの両方に電圧を印加し、ドレインに2〜3Aの電流を流しながら実行する。この点がオフ時の容量の測定方法と違う(図5)
図5:新しいモデリング手法によるデバイスモデル
左図は、Sパラメーターによるオン時の容量測定を実施しない従来手法である。オフ時の容量のシミュレーション値は測定値と合っており問題ない。しかし、オン時の容量のシミュレーション値と測定値の間には大きな違いがあった。右図は、Sパラメーターによるオン時の容量測定を実施し、それを考慮することで、オン時の容量のシミュレーション値と測定値を合わせ込むことに成功した。オフ時については、その影響を一切受けておらず、問題ないことが分かる。[クリックで拡大] 出所:キーサイト・テクノロジー
こうして測定したオン時の容量は、従来のモデリング手法の手順と同じようにモデリングツール(IC-CAP-2022)に入力する。SiCパワーMOSFETのデバイスモデルは数式で表現しており、その数式にはいくつものパラメーターが含まれている(図6)
図6:デバイスモデルの種類
回路シミュレーションを実行する際には、デバイスモデルが欠かせない。SiCパワーMOSFETでは、経験的数式モデルを採用している。[クリックで拡大] 出所:キーサイト・テクノロジー
モデリングツールは、入力されたさまざまな測定結果を基にパラメータを自動的に最適化して出力する。しかし、この段階のパラメーターで構成したデバイスモデルでは、測定結果とシミュレーション結果は完全に一致しない。そこでモデリングツールに用意している「チューニング・バー」を使って、電源回路設計者がパラメーターを微調整する。こうして測定結果とシミュレーション結果を完全に一致するように、デバイスモデルパラメーターを抽出するわけだ。
ただし、このチューニング・バーを使ったパラメーターの微調整作業には注意が必要である。1つの特性を合わせると、ほかの特性がズレてしまうからだ。パラメーターは複数の数式に関与しているケースが多い。このため「あちらを立てれば、こちらが立たない」といった事態を招く。
電源回路設計者の手で微調整したデバイスモデルを使って回路シミュレーションを実行した結果が図7である。スイッチング動作時の電圧波形や電流波形に現れるリンギングやオーバーシュートの大きさや周波数が一致しているほか、従来はズレがかなり大きかったターンオフ時におけるVds(ゲート-ソース間電圧)の降下のタイミングや傾きや、Vds(ドレイン-ソース間電圧)の上昇のタイミングや傾きもほぼ一致している。
このシミュレーション結果を使って、電源回路の変換効率を求めたところ、測定結果とのズレをターンオン時に約15%、ターンオフ時に約5%に抑え込むことに成功した。この程度の差異であれば、SiCパワーMOSFETを採用した実際の電源回路設計に適用することができるだろう。
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