SiCパワーMOSFETのデバイスモデル、オン時の容量考慮で精度が大幅向上:SiC採用のための電源回路シミュレーション(1)(5/5 ページ)
スイッチング動作が極めて高速なSiCパワーMOSFETを用いた電源回路設計では、回路シミュレーションの必要性に迫られることになるが、従来のモデリング手法を用いたデバイスモデルでは精度面で課題があった。本連載では、この課題解決に向けた技術や手法について紹介する。
温度特性にも配慮を
SiCパワーMOSFETのデバイスモデルは、オン時の容量を考慮することで、精度をより高めることが可能になった。ただし、ここがゴールではない。さらにキーサイトでは、このほかにもSiCパワーMOSFETのデバイスモデルの精度を高める取り組みを進めている。その1つが温度特性の考慮である。
温度特性は、シミュレーション結果に与える影響が決して小さくない。逆回復(リバースリカバリー)特性を例に説明しよう。図8は、+30℃、+80℃、+130℃における逆回復特性の測定結果とシミュレーション結果である。逆回復特性では、温度が高くなればなるほど、逆回復の電流量が増える。電流量は電力損失に直結するため、電源回路の変換効率に与える影響は小さくない。従って、より高い精度でシミュレーションすることが求められる。
図8:逆回復のドレイン電流温度依存特性
SiCパワーMOSFETの+25℃、+75℃、+125℃における逆回復特性の測定結果とシミュレーション結果である。[クリックで拡大] 出所:キーサイト・テクノロジー
図8に示したシミュレーション結果では、測定結果と同じように、温度上昇によって逆回復の電流量が増えていく様子を正しく解析できている。グラフの形状は、測定結果と若干違う。しかし逆回復の電流量については、その面積が重要になるため問題ない。従って、実際の電源回路設計に十分に活用できる解析精度だといえるだろう。
温度特性は、前で述べたSiCパワーMOSFETの数式モデルに入れ込んである。SiCパワーMOSFETをヒーターで挟み、ダブルパルステスター(キーサイト製品であれば「PD1500A」)を使って、さまざまな温度特性を測定する。これをモデリングツールに入力することで、温度特性に関するパラメータを抽出するわけだ。
SiCパワーMOSFETのデバイスモデルは、オン時の容量を測定することに加えて、温度特性を考慮することで従来に比べて精度を格段に高めることが可能になった。この結果、実際に電源回路を試作しなくても、PC上でかなり高いレベルの回路設計の検討が可能になったといえるだろう。このことは間違いなく、SiCパワーMOSFETの普及に一役買うはずだ。
それでも、まだここがゴールではない。現時点よりもさらにシミュレーション精度を高められるように、キーサイトはデバイスモデルのブラッシュアップに取り組む考えである。
【著】
・谷川博章(キーサイト・テクノロジー株式会社PathWave ソフトウエア ソリューション事業部Customer Success Acceleration Foundry Solution)
・橋本憲良(キーサイト・テクノロジー株式会社グローバルソフトウェア&サービス営業本部EDAアプリケーションエンジニアリング部)
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