LE Audio対応補聴器の活用例と要件:LE Audio概説―補聴器の活用例【前編】(4/4 ページ)
本稿では、LE Audioの補聴器対応の活用例や同技術がそのための要件をどのように満たし、消費者向けアプリケーションへと発展していったのか説明します。
実際の使用に関する要件
補聴器はとても小さく、ボタンを設けられる場所が限られています。補聴器はさまざまな年齢層の人に使用されますが、年配者の場合は手先の細かい動きが難しいこともあるため、操作しやすい他のデバイスで音量調整や接続の操作を実装できることが重要です。これらの機能は音源のデバイス(通常はユーザーのスマートフォン)に実装することもできますが、補聴器ではキーホルダー型のリモコンを別に用意することも一般的に行われています。
リモコンはすぐに使えるというメリットがあります。補聴器の音量を下げたい場合は、音量ボタンまたはミュートボタンを押すだけででき、スマートフォンのようにまずは画面を表示させてから補聴器アプリを探し、そこから操作するという手間がありません。すぐに便利に使える音量調整/ミュート機能は必要で、それができない場合は補聴器を耳から外してしまうという望ましくない行動に出てしまうでしょう。
補聴器には音量に関連した要件がもう1つあります。音量(実際にはゲイン)が補聴器側に実装されなければならないという点です。その理由は、オーディオストリームがラインレベルで伝送されている場合、最大限のダイナミックレンジが使用できるからです。音声を処理する補聴器では、入力信号のSN比が可能な限り最良のものであることが重要です。アンビエントマイクからのオーディオストリームと混合する場合はなおさらです。オーディオのゲインが音源で下げられると、SN比が低くなります。
電力消費を抑える
補聴器とイヤフォン/ヘッドフォンは、補聴器が長時間装着したままで常に使用される点が異なっています。補聴器は環境音を拡大/調整し、装着者がより明確に音声を聞き取れるようにします。補聴器を使用する人は、補聴器を頻繁に外して充電ケースにしまう、ということはしません。補聴器の典型的な装着時間は1日当たり約9時間半で、人によっては15時間以上装着します。通話のときやオーディオ視聴のときだけに装着するイヤフォンやヘッドフォンとはかなり異なります。イヤフォンメーカーは、イヤフォンが一日を通して充電されるように充電ケースをうまく設計し、バッテリー寿命が実際よりかなり長い印象を持たせています。補聴器ではそのようなことができないため、できるだけ電力消費を抑えるほかありません。
他のデバイスの検出とバックグラウンド接続の維持は大量に電力を消費します。イヤフォンでは、これを行うタイミングが明確になっています。充電ケースから取り出されたときです。ほとんどのイヤフォンでは光学センサーで耳に装着されていることが感知できるため、デスク上に置いたままだとスリープ状態になります。
補聴器の場合は、このように明確にBluetooth接続を開始する合図がなく、常にオンの状態で補聴器の機能を果たしています。つまり待機状態にあるときも、他のデバイスとのBluetooth接続を維持しなければなりません。デューティサイクルが低い接続にすることはできますが、あまりに低すぎると補聴器が電話の着信を逃したり、音楽ストリーミングアプリの起動への反応に時間がかかりすぎたりします。補聴器はテレビ、電話、さらには玄関のドアベルなど、さまざまなデバイスと接続する可能性があり、こうした接続があまりに電力を消費するため、バッテリーを消耗せずに多種多様な製品と高速に接続できる新しい仕組みが必要でした。
今回は、トポロジーと接続の要件定義について解説しました。次回の記事では、それらに対応するための要件をコア仕様の中でどのように満たしたのか、さらに追加された新機能がどのように消費者向けのアプリケーションに応用されるに至ったのか解説します。
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