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LE Audio対応補聴器の要件を満たした新機能LE Audio概説―補聴器の活用例【後編】(3/3 ページ)

 前編で説明した通り、トポロジーと接続の要件定義ができたところで、それらに対応するために多数の新機能をコア仕様に追加する必要があることは明らかです。今回は、それらに対応するための要件をコア仕様の中でどのように満たしたのか、さらに追加された新機能がどのように消費者向けのアプリケーションに応用されるに至ったのか解説します。

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HFPとA2DPができることへの対応

 長年の課題の多くに応えるBluetooth LE Audioの可能性に気付き始めた消費者向けエレクトロニクス業界は、A2DPとHFPでできる全てのことをBluetooth LE Audioでもできるようにしてほしいという実用上の要件を要求しました。これが3つ目の壁です。使い勝手が悪くなるのであればBluetooth Classic Audioに代わってBluetooth LE Audioを使いたいと思う人はいないでしょう。

 これらの要件では、新しいコーデックはさらに高い性能を求められ、メディア/通話制御に関してはそれまでよりはるかに複雑な要件群が新しく登場しました。当初の補聴器の要件では、スマートフォンに対する制御機能は限られていました。特に補聴器のユーザーインタフェースがかなり限られたものであることを考えると、ほとんどのユーザーが複雑な機能の操作はスマートフォンやテレビ側で行うだろうと想定されていたからです。消費者向けオーディオ製品の多くはサイズが大きく、補聴器のような制約はありません。こうして、より複雑な操作ができるように、通話/メディア制御に関する要件が追加されました。

HFPとA2DPを超えた進化

 最後の壁に相当する要件群は、オーディオや電話のアプリケーションがHFPやA2DPを超えてしまったことを反映していました。現在、通話の多くがVoIPで行われ、ノートPC、タブレット、スマートフォンのどれであっても、1台のデバイスにさまざまな種類の音声通信が入ってくることが一般的です。Bluetooth技術には、複数の異なるベアラによる音声通信によりよく対応できる方法が必要でした。同様に、A2DPではストリーミングと、それに伴う検索要件を想定していませんでした。A2DPが策定された時代にはユーザーは音楽をローカルに保存していたため、ローカルのファイルを選択する以上の複雑な操作を行うことはほとんどなかったからです。現在はもっと複雑なメディア操作機能が必要です。音楽ストリームを中断することなく音声コマンドを使用できるようにする必要もあります。

 電話/会議アプリで複数の種類の通話を扱い、さらにオーディオストリーミングもあるという複雑な状況は、デバイスやアプリケーション間の遷移が多いことを意味します。HFPとA2DPのアーキテクチャ本来の違いによってそれは以前から困難でしたが、その結果HFPとA2DPのためのMPS(Muti Profile Specification)を構成する規則のベストプラクティス集が生まれました。Bluetooth LE Audioという新しいアーキテクチャでは、それをさらに超えて、デバイスとアプリケーション間および、ユニキャストとブロードキャスト間で、堅牢で相互運用性のある遷移が行えるような複数プロファイルへの対応を設計に組み込む必要がありました。

 消費者向けシステムの領域で、テレコイルや補聴器のブロードキャスト機能がどのように機能するか理解が進むにつれ、ブロードキャストで大衆消費者向けに面白いアプリケーションができるのではないかという気付きが生まれました。その筆頭に挙げられるのが、音楽の「共有」に活用できるのではないかという気付きです。具体的には、携帯電話の音楽を友人と一緒に聴くことやりサイレントディスコ、カフェや公共の場での「サイレント」なBGMなどが考えられます。補聴器ユーザーに向けて交通情報などを提供する公共放送施設は、Bluetoothヘッドセットを使用している人全てに対して情報を発信できます。こうして「Audio Sharing」のコンセプトが誕生しました。

豊富な機能は新たな活用例にも対応

 新しい活用例は、次々と増えていきました。2個のイヤフォンのステレオチャネルの同期ができるのであれば、サラウンドサウンドも同じようにできるのではないでしょうか。企業は、リモコンとして機能したり、MP3プレイヤーを組み込むことで音源としても機能したりする、スマートウォッチやスマートバンドへの対応を盛んに求めました。その他、低レイテンシは、ゲーミング業界の関心も引き付けました。企業が自社の顧客と製品戦略に対してどのようなメリットがあるか、それが音声と音楽の将来的な利用にどのような影響を与えるかを見いだすごとに、活用例の数は増え続けました。

 機能が豊富な分、仕様の完成までに長い時間がかかりましたが、ここ数年に出てきた新しい活用例のほとんどについて、既に策定されている機能で対応でき、新しい仕様を作り直す必要がないということは喜ばしいことでした。それはBluetooth LE Audioが優れた設計を持ち、今日のオーディオアプリケーションだけでなく、これから登場してくる新しいオーディオアプリケーションにも対応できることを示唆しています。

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