RTC設計で重要な温度補償、有効な手段を検討する:RTC設計講座【後編】(1/3 ページ)
RTCの特徴および関連する設計上の課題について概説する連載の後編。今回は、RTC設計で重要となる温度補償について、設計者が検討できる選択肢を詳しく説明する。
本連載の前編で述べたように、温度変動は水晶振動子の周波数ドリフトを引き起こす最大の要因だ。この問題を緩和する上で設計者が検討可能な選択肢はいくつかある。
較正レジスタ内蔵RTC
温度は安定しているが平均温度が25℃ではない環境で運用されるアプリケーションの場合、時刻補正に較正レジスタ内蔵リアルタイムクロック(RTC)を使用することが考えられる。要はクロックカウンターの値を増減させることで、クロック速度を変えるのだ。時刻補正に必要な追加カウント数または削減カウント数は、水晶振動子サプライヤーから提供される水晶周波数の式を用いて計算できる。
このタイプのRTCを外部温度センサーと組み合わせて使用してもいいだろう。温度センサーの出力に基づき、マイクロコントローラーはカウント値を周期的に調整できる。ただし、このアプローチにはいくつか欠点もある。
まず、温度センサーが加わることでシステムコストが上がり、基板スペースも取られる。2つ目は、マイコンが較正レジスタを周期的に調整しなければならず、そのためマイコンのオーバーヘッドが増えること。3つ目は、水晶の周波数の式に水晶振動子の実際の温度反応がさほど厳密には反映されていない可能性があることだ。これは各水晶振動子がそれぞれ微妙に違っている場合があるが、周波数の方程式は典型例を示しているにすぎないからである。高精度が求められるアプリケーションでは、このソリューションは選択肢から外れるかもしれない。
クロックソースとしてのTCXO
温度補償水晶発振器(TCXO)は、水晶振動子、温度センサー、デジタルロジックを1つのパッケージにまとめたものだ。動作温度範囲全体での出力周波数誤差は極めて小さい。TCXOの出力を水晶の入力またはRTCのクロック入力に接続するだけで計時ロジックを駆動できる。このソリューションでは、時刻補正用のマイコンは不要だが、基板スペースは依然として必要であり、コストと消費電力が増えるという問題もある。
TCXO内蔵RTC
高精度RTCは温度センサー、水晶振動子、負荷コンデンサー、温度補償回路を統合している。通常、このタイプのRTCの精度仕様は、産業グレードでは−45〜+85℃、車載グレードでは−40〜+125℃の動作温度範囲で約5ppm※)またはそれ以下である。もちろん基板スペース、電力、マイコン等のリソースも節約できる。
※)「parts per million(百万分の1)」の略。一般にクロック精度の計測単位として使用される。
前述した通り、周波数誤差を補正するためには、RTCは温度だけでなく水晶振動子の温度反応特性も知らなくてはならない。この情報は製造時の較正プロセスから得られる。水晶振動子サプライヤーは代表周波数の計算式を提供しているが、各水晶振動子の特性は微妙に違っていることがある。室温では代表的な水晶振動子で最大20ppmの誤差が生じる場合がある。
最高精度の動作を保証するためには、全てのRTCを個別に較正するべきだ。そのため、較正プロセスでは、水晶振動子の周波数を複数の温度ポイントで測定する。当然ながら、測定される較正ポイントの数が増えるほど、測定データが実際の周波数-温度特性曲線に合致してくる。
較正時には、各測定の前にテストチャンバーの温度を変更するか、あらかじめ温度が設定されている別のチャンバーにウエハーを移動する必要がある。ウエハーの温度が平衡に達した後に、測定が実施可能になる。これらの理由から、メーカーは測定回数を増やすことを好まない。測定を何度も行えばテスト時間が著しく増え、結果としてデバイスのコストも上昇するからだ。
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