コンデンサーは新品同様なのに ―― パワー不足のモータドライバー電源の修理(前編):Wired, Weird(2/2 ページ)
「コンデンサーの容量が少なく動作中の開閉がうまくいかず、オーバーヒートの症状があるそうでコンデンサーを調査してほしい」というモータドライバー電源の修理を依頼された。
パワーが本来の70%程度にまで低下
おそらく電解コンデンサーに蓄積された電力が足りないことが原因だろう。つまり電力の充電側に原因が隠れている可能性が高い。まずは電解コンデンサーを充電している三相サイリスタの動作を単品で確認した。三相サイリスタの構造図を図5に示す。
図5の三相サイリスタの動作確認は簡単にできる。サイリスタのゲートからカソードに電流を流し、アノードからカソードに電流が流れれば正常だ。ゲートとP間に20mAの電流を流してサイリスタの動作を確認した。その結果T相のサイリスタだけがオンしなかった。R、S相のサイリスタやR S TからNのダイオード3個は正常に動作した。これでは三相運転でなく単相運転になってしまい、パワーが本来の70%程度にまで下がったのが動作不良の原因と思われた。
では、なぜサイリスタが破損したのか。
NTCパワーサーミスタによる突入電流防止
端子台から回路の接続を確認したところ、突入電流を防止する部品が入っていなかった。一般的には簡易に突入電流を防ぐためのNTCパワーサーミスタが使用されるが、依頼品には見当たらなかった。NTCパワーサーミスタの使用例を図6に示す。
図6はNTCサーミスタを使った突入電流の防止回路例だ。電解コンデンサーと整流ダイオードの間にNTCサーミスタ入れて突入電流を防止している。NTCサーミスタは常温では10Ω程度の抵抗があり、通電時には電流を制限し、その後流れる電流によってNTCサーミスタの温度が上昇するにつれ抵抗が常温時の10の1程度にまで下がることで稼働時には十分な電流を流すようになる。ただし、いったん電源を切ってしまうと、再通電させるにはNTCサーミスタが常温に戻るまで3分程度待つ方が良い。不具合の再発を防ぐためにもNTCサーミスタの追加を顧客へ提案し、OKの返事をもらった。続きは次回に報告する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 修理途中で投げ出された電源ユニットを修理(前編)
知人の会社から事前連絡もなく、荷物が届いた。その荷物は、修理を途中で諦めたと思われる電源ユニットだった。 - 激しい汚れでパワーモジュールに異常 ―― 7.5kWインバーターの修理(1)
知人から7.5kWのインバーターの修理依頼があった。不具合の詳細は不明だったが、内部にエラー履歴も残っているだろうし、現場の情報が入りやすい依頼者なので引き受けることにした。 - 生産中止後も考慮した手厚いサポートに感心 ―― モータードライバーの故障原因調査【前編】
ダイレクトドライブモータードライバーの不良について調査してほしいという依頼があった。今回から2回にわたってその様子を紹介する。 - 電源は電解コン総取っ換えだけでは直らない! ―― パワコンの修理(1)
電源の故障が疑われるパワーコンディショナー(パワコン)の修理依頼があった。依頼主は自ら修理を試み、電源の電解コンデンサーを全て取り換えたようだが、直らなかったらしい……。 - 電解液でひどく腐食した片面基板の修理【前編】
今回はSNS経由で依頼された「特殊なモータードライバー」の修理の様子をレポートする。電解コンデンサーの液漏れで片面基板がひどく腐食していて難しい修理になった。 - 突然タンタルコンが燃えた ―― バッテリーを逆接した基板の修理(1)
今回はバッテリーが逆接続された基板の修理について報告する。電源を逆接続したら基板に搭載された部品にどのような現象が起こり、どのように部品が壊れるかを検証するのによい機会になった。