今なお現役、1000種以上が存在するIntel空前の長寿MCU「8051」:マイクロプロセッサ懐古録(2)(5/5 ページ)
昔懐かしのプロセッサを取り上げ、その歴史をたどる本連載。今回は、20年近く前に生産が終了しているにもかかわらず、今なお使われている「Intel 8051」を取り上げる。
短命だった「MCS-151/251」
この性能に気を良くしたであろうIntelは、これに続き「MCS-151」および「MCS-251」を発表する。MCS-151こと「80C151」は1996年4月8日に発表された。80C151は内部バスを16bit化し、さらにパイプライン構造を取る事で5倍の性能を発揮(資料によっては6倍になっているが、プレスリリースでは5倍とされる)、80C51とバイナリ互換、パッケージ互換で差し替えるだけでアプリケーションが高速化されるというものだった。一方MCS-251の方は、正確な発表日が不明なのであるが、1995年1月19日付のForm 8-Kによれば、1994年の第4四半期に発表されたらしい(図10)(出荷開始は1995年2月13日だった)

図9:MCS 51 Microcontroller Family User's Manual(Feb 1994)より抜粋。ちなみにこれ、2ページにわたって掲載されていたものを1つにまとめた[クリックで拡大]
そのMCS-151の内部構造(図11)とMCS-251の内部構造(図12)を見比べるとほぼ同じというか、アドレスバスの幅が違うのが唯一の差という感じがしなくもない。このMCS-251、基本的には8051と命令互換であるが、OpCodeがA5(8051ではReserved)の場合には2Byte目のOpCodeが利用でき、これを利用して拡張命令が追加された(図13)。アドレス空間は16MBに拡張され、このアドレス空間指定のためにいくつかの命令には32bitのオペランドもサポートされたが、データバスが8bitであることから分かるようにMCS-251は8bitのCPUと扱うのが正しいかと思う。算術演算および論理演算に若干16bit幅のものもあるが、これはアドレス計算用のものと考えられる。登場時期とか内部構造を考えると、そもそもMCS-251がまず開発され、このうち拡張命令のサポートを切ったのがMCS-151という感じなのではないかと思う(アドレスバスも、物理的には24bitが実装されており、ただし16bit分しか使わないとかの可能性が高い)

図11:8XC151SA and 8XC151SB Hardware Description(Jun 1996)より。アドレスバスは16bit、データバスは8bitになっており、まぁ間違いなく8bit MCUのコアである[クリックで拡大]

図12:8XC251SA, 8XC251SB, 8XC251SP, 8XC251SQ Embedded Microcontroller User's Manual(May 1996より)。データバスは8bitのままなのに、アドレスバスは24bitに拡充されている。あとはData RAMが512Bytes/1KBに増量されているのが目立った違いで、あとはMCS-151と同じに見える[クリックで拡大]
さてこれが売れたか? といえば全然だった。1996年といえば、もう山のように高速なCPUコアが存在していた時代である。これが1986年とかであれば、まだCISCベースのCPUが幅を利かせていた時代だったが、1990年後半といえばARM7ベースのMCUが市場を席捲(せっけん)し始めた時期に当たる。AtmelのAVRが登場したのもやはり1996年であった。もっと言ってしまえば、例えばアイントホーフェン工科大学に在籍していたR.A.M.J. Snijders氏は"The design and implementation of a pipelined 8051 microcontroller core"という修士論文を1997年に出している。これより先に、さまざまな8051を利用していたメーカーは自社で8051のパイプライン化に取り組んでおり、今さらIntelがやったところで……という感じであった。もうこの頃には8051はSoC(System on Chip)やらASICやらに組み込む形で広く使われており、今さらディスクリートの形で出されても、という話もあっただろう。結局2006年5月にEOLのPCNがリリース、MCS-151/251の最終出荷日は2007年9月28日となった。
MCS-151/251は短命だったが、8051シリーズは27年にわたって販売が続いた製品であり、そして恐ろしい事に今もなお使われている。さすがに新規デザインを8051で、という話はついに聞かなくなってきたが、懐古録に名前を記されてしかるべきなのに現役、というあたりがこの業界の怖いところである。
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