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地球規模のエネルギー効率向上、鍵を握るのは”モーター制御の最適化”Microchipが支えるモーター制御最前線

現代社会では、家電製品から産業用機械まで、あらゆるところでモーターが使われています。世界のエネルギー消費の大半をモーターが占めている事を考えると、モーター制御を最適化して効率を高めることは非常に重要です。本稿では、モーターの構造、VFD(可変周波数ドライブ)の活用、ハードウェアサポートや高度なアルゴリズムを含むモーター制御アプリケーションのソリューションについて詳しく解説します。

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モーターの普及とエネルギーの消費量

 モーターは日常生活に欠かせない存在で、洗濯機、乾燥機、食器洗浄機等の家電製品に組み込まれています。車載用途でも不可欠で、最新の自動車にはモデルやグレードに応じて40〜100個のモーターが搭載されています。産業用途、特にロボット工学や工場の自動化もモーターなしでは成り立ちません。


提供:Microchip Technology

 米エネルギー情報局によると、世界のエネルギー消費の約50%はモーターによるもので、特に産業用途では80%を超える可能性もあります。米国では2022年の総エネルギー消費量が4.07兆キロワット時で、1日当たりでは112億キロワット時です。モーターの効率を1%向上させるだけで、毎日5600万キロワット時の節約が可能になります。

高効率化へ、モーターの構造と材料の進歩


提供:Microchip Technology

 モーター効率の主なトレンドの1つは、AC誘導モーター等の従来型モーターから、BLDC(ブラシレスDC)モーター、PMSM(永久磁石式同期モーター)、IPM(埋め込み型永久磁石式)モーターといったより効率的な種類への移行です。これらは、より高い効率と優れた性能を備えています。さらに、アモルファス金属や希土類磁石など、材料の進歩も効率向上に貢献しています。

 モーター技術は、過去1世紀で、材料と設計の進化によって効率と性能が大幅に向上しました。モーターは通常、エンドベル、ローター、ベアリング、巻線を備えたステーターで構成されますが、各部品に採用される材料も進化しています。例えば、ローターとステータのコイルをアルミニウムから銅へと変えることで導電ロスが減少し、効率が上がりました。また、製造公差の進歩によりノイズや振動も抑えられました。

 注目すべきトレンドの1つは、ローターとステーターにアモルファス材料を用いる事です。従来はケイ素鋼板が使われていましたが、渦電流損失とヒステリシス損失が大きいという課題がありました。これらは現在、低損失で高効率なアモルファス材料(金属ガラス又は非結晶性合金)に置き換えられつつあります。

 永久磁石モーターも大きく進化しており、ネオジム、鉄、ホウ素等の希土類材料から作られたより強力な磁石によって、より大きなトルクと効率が実現されています。一方で、希少資源の持続可能性が課題となっており、広い温度範囲や強磁場に対応できる特性を持つアルミニウム、ニッケル、クロム、フェライトベースの磁石等の代替材料が研究されています。


提供:Microchip Technology

 軸受けをジャーナルベアリングからボールベアリングに移行した事で、摩擦が減り、公差が向上してモーター効率が大幅に改善されました。過去1世紀で、モーターは同じ出力を維持しつつ大幅に小型化されました。例えば、最新の5馬力のかご型ローター3相誘導電動モーター(SCIM)は、1910年当時の同じ定格出力のモーターと比べ大幅に小型化され、重量も約20%にまで減っています。これは、より軽量で効率的な材料の採用と、耐熱性と電気絶縁の進歩によるものです。軽量のモーターは、特に車載用途で有益で、加減速時のエネルギー効率が向上するだけでなく、より狭い空間に組み込む事が可能になります。これらの技術進歩がもたらす影響は非常に大きく、より少ないエネルギーでより高い性能を発揮する、高効率的なモーターシステムが実現可能になります。


提供:Microchip Technology

 材料と設計の改良により、モーターの効率と性能は大幅に向上しました。アモルファス材料や強力な磁石、ベアリングの進化、モーターの小型化などの革新が技術の未来を切り開いています。今後も新たな材料と設計の追究によって、モーターシステムのさらなる高効率、高性能化が期待されます。

VFDの活用とその影響

 VFDは、モーター速度の制御と効率向上を可能にするために急速に普及が進んでいます。負荷要件に合わせた速度制御により、エネルギー消費量を削減します。またVFDにおけるIGBT(絶縁ゲート型バイポーラ トランジスタ)からSiC(炭化ケイ素)技術への移行により、スイッチング性能が向上し、さらなる効率向上が実現しています。

 VFDは、モーター速度とトルクの精密な制御を可能にし、モーター制御に革命をもたらしました。VFDは、モーターに供給される周波数と電圧を調整し、その時の負荷に応じて最も効率的なポイントで動作する事を可能にします。

 例えば、従来のモーターシステムの多くは、フルパワーで動作させたまま流量を絞り弁で制御しており、大きなエネルギー損失が発生します。一方、VFDはモーターの速度を必要な流量に合わせて調整するため、絞り制御は不要になり、エネルギーの消費を削減し、システム全体の効率が高まります。研究では、VFDに切り替える事で効率が約31%から72%へと大きく向上する事が分かっています。


提供:Microchip Technology

モーター性能の最適化へ、Microchip社の包括的ソリューション

 Microchip社はモーター制御向けに、ハードウェアサポートや高度なアルゴリズムを含む包括的なソリューションを提供しています。そのポートフォリオにはMCUやゲートドライバー、パワーエレクトロニクス、センサーが含まれており、その全てがモーターの性能を最適化するように設計されています。


提供:Microchip Technology

 Microchip社は、モーター制御システムの設計と開発時間を短縮しつつ、性能と効率を最適化するため、幅広いハードウェアサポートを提供しています。VFD向けには、高効率のSiC MOSFETや高精度なスイッチングを実現する高度なゲートドライバーを用いたAC/DCコンバーターおよび、インバーターを提供しています。dsPIC DSC(デジタルシグナルコントローラー)が制御するインバーターは、モーターの効率化のためDCを可変周波数ACに変換。さらに内蔵センサーがリアルタイムで電流、電圧、温度をフィードバックし、システムの信頼性を高めます。また、高度なモーター制御アルゴリズムの設計と実装をサポートする評価用および開発ボード、リファレンスデザイン、ソフトウェアライブラリ、開発ツールも提供しています。


提供:Microchip Technology

センサーレスで実装も、高度な制御アルゴリズム

 モーター制御システムの最適化に欠かせないのがアルゴリズムです。AC誘導モーターのV/F制御のような従来の手法は、コスト効率が高く単純ですが、最高の効率が提供されるとは限りません。BLDCモーターやPMSMモーター向けの6ステップ転流をはじめとする高度なアルゴリズムは、より優れたトルク制御を実現し、センサー付きまたはセンサーレスで実装できます。最も効率的なのはFOC(界磁制御)で、高効率、低ノイズ、優れたトルクおよび速度性能を備え、モーターの種類とアプリケーション要件に応じて、センサー付きまたはセンサーレスで実装できます。


提供:Microchip Technology

 Microchip社のモーター制御ソリューションは、FOC、MTPA(最大トルク/電流)、弱め磁界等の高度なアルゴリズムを備え、効率と性能を最大化します。これらはMPLAB開発スイート等のツールでサポートされており、制御アルゴリズムの実装や調整が容易です。さらに、予兆保全を目的とするML(機械学習)機能によって、モーターの最高効率での運転を支援すると共に、故障のリスクを低減します。センサーレスFOCの進化系であるZS/MT(ゼロ速度/最大トルク)制御は、HFI(高周波インジェクション)に基づく信頼性の高いIPD(初期位置検出)手法によって、低速やゼロ速度での正確なローター位置検出を実現し、ホールセンサー等を不要にします。これは電動ドリルやガレージドア、自動車のスターター、電動自転車等に最適です。


提供:Microchip Technology

IoTおよびAI/MLとの統合で予知保全を実現

 IoT(モノのインターネット)技術とAI(人工知能)技術の統合は、モーター制御に革命をもたらしました。モーター制御には電流やトルク、ローター角度等を検出するセンサーが不可欠で、これらのデータは、情報処理が可能なMCUに送られます。MLアルゴリズムが組み込まれているため、センサーデータを分析し、潜在的な故障や保守の必要性を予測する予兆保全が実現できます。この機能は、特に産業環境での長時間のダウンタイムや経済的損失を防ぐ上で重要な機能であり、モーターの効率と性能を最大限に引き出し、予期せぬ故障が発生する可能性を減らします。

 予兆保全は、センサーとMLアルゴリズムを用いてモーターの健全性を監視し、故障前に潜在的な問題を特定します。電流やトルク、振動等のデータを継続的に分析する事で効率的な動作を維持し、ダウンタイムを最小限に抑えます。これはモーター故障が大幅な生産ロスにつながる可能性がある産業環境で特に有効です。Microchip社は、MPLAB機械学習開発スイートdsPIC LVMCモーター制御ボードを組み合わせた予兆保全のデモアプリケーションを提供しています。このシステムは、分類モデルでモーターの運転状態を特定し、Iq電流の監視を通じて、負荷の不均衡やベアリング破損等の異常を特定します。

まとめ

 世界的なエネルギー消費の削減と、さまざまなアプリケーションの性能向上には、モーター制御の最適化が極めて重要です。効率的なモーターへの移行、VFDの活用、高度な制御アルゴリズムの実装、IoTとAI技術の統合によって、大幅なエネルギーの節約が可能です。Microchip社は、これらの取り組みを支援するため、効率的なモーター制御システムの開発に必要なハードウェア、ソフトウェア、専門知識を含む包括的なソリューションを提供しています。エネルギー効率の高いソリューションへの需要は高まる一方です。モーター制御技術の進化は、これらの需要に応える鍵となるでしょう。

【著:Pramit Nandy/Microchip dsPIC部門製品マーケティング マネージャ】

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提供:マイクロチップ・テクノロジー・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年9月3日

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