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登場して半世紀、多くの互換品を生んだIntel「80186/80188」マイクロプロセッサ懐古録(10)(1/3 ページ)

1980年代初頭に登場したIntelのマイクロプロセッサ「80186/80168」は、多くの互換CPU/CPU IPを生んだ。発売後、半世紀近くがたった今でも、多くの組み込み機器で動作している驚異的なロングランのプロセッサである。

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「80186/80188」が開発された背景

 多分組み込み業界に籍を置かれていた読者なら、「Intel 80186/80188」がどんな風に利用されていたかご存じの方も多いと思うが、そうでない方だと「8086/8088とソフトウェア互換だけどハードウェアは非互換」程度の認識しかお持ちでないかもしれない。実際まぁこれは半分当たっている訳だが。

 80186/80188は1980年代初頭に発売された、8086/8088互換のMicroprocessorである。「1980年代初頭」と曖昧なのは資料によって発表/発売時期がまちまちだからで、1981年発表・1982年発売という話もあれば1982年に発表および発売、1984年に発売というものもあった。ただ筆者の手元には1982年版のデータシートがあるので、さすがに1984年という話はウソである。1995年版の80C186XL/80C188XL Microprocessor User's Manualを見るとこんな記述(図1)があるので、発売は1982年で間違いなさそうだ。では発表は?というとこれがもう分からない。実はもうサイトは残っていないのだが、(Way back Machineに残された)CPU-GalaxyのIntel 80186のページにあるA80C186-16の刻印を見ると製造が1978年となっているあたり、発表そのものは1982年より前でも不思議ではないが、正確な発表年は不明である。

Photo01:赤枠の直前の"The amount of software for the 8086/8088 is rivaled by no other architecture"が何とも言えない。まぁそこまで言うだけのソフトウェアの蓄積があったのは事実だが。
図1:赤枠の直前の"The amount of software for the 8086/8088 is rivaled by no other architecture"が何とも言えない。まぁそこまで言うだけのソフトウェアの蓄積があったのは事実だが。

 先のUser's Manualを見ると、80186/80188の位置付けは(Photo01の赤枠部の中にもあるが)"Embedded microprocessors"である。つまり組み込み向けとなっている訳だ。この理由もPhoto01の冒頭に記されている。8086や8088はチップ単体で動作せず、周囲に多数のサポートチップを必要としており、これは低価格性が強く求められる組み込み用途には不向きであった。その一方で、8086ベースのSBCなどを利用した組み込みシステムはもう1980年頃には登場しており、こうした組み込みシステムとのソフトウェア互換性を保つことも求められていた。このニーズを満たすのには、プロセッサのコアそのものは8086と同じものとし、ただしこれまで別チップの形になっていた周辺回路を統合することで、なるべく少ない数のチップでシステムを構築できるようなプロセッサである。

 実際、8086/8088で必要となる周辺チップの数は多い。図2は8086/8086-2/8086-1 Datasheetに示されたMinimum/Maximum Modeにおける8086 Systemの構成で、あたかも8284A(Clock Generator)と8288(Bus Controller)だけあれば構成できる様に見えなくも無いが、実際にはInterrupt Controller(8259)とかDMA Controller(8237)、Timer(8253)など組み込みシステムを構築するには欠かせない機能がMaximum Modeの構成にも欠けている。図3はIBM-PCの構成であるが、Buffer類(74LSシリーズ)を別にしても結構多くの周辺チップを必要としているのが分かる。

Photo02:あくまでもROMとRAMだけで動作し、その先は知らんというなら確かにこの構成でも動作するとは思うが。
図2:あくまでもROMとRAMだけで動作し、その先は知らんというなら確かにこの構成でも動作するとは思うが。
Photo03:IBMのBlue Book(IBM Personal Computer Hardware Reference Library Technical Reference)より抜粋し、2Pに分離しているものを合体。赤枠部がIntelの周辺チップ。
図3:IBMのBlue Book(IBM Personal Computer Hardware Reference Library Technical Reference)より抜粋し、2Pに分離しているものを合体。赤枠部がIntelの周辺チップ。

 一応理由を説明しておくと、8086/8088はMulti-Processor向けのシステム(図4)も考慮しており、こうした構成ではそれこそInterrupt ControllerとかDMA/TimerなどはCPUと一体化させてしまうと、複数のCPU同士で干渉しかねないのでCPUから分離させた方が賢明という判断があったものと思われる。問題は8086/8088のMulti-Processor Systemがそう多く無かった事だ。そして組み込み向けにMulti-Processorはまだ使われる事はレアであり、なので80186/80188ではこうした別チップになった周辺回路を全部統合する事に問題は無いと判断されたようだ。

Photo04:1979年10月版のThe 8086 Family User's Manualより。
図4:1979年10月版のThe 8086 Family User's Manualより。

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