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インタビュー

LTspice開発者は、なぜ「QSPICE」も作ったのかRF回路シミュレーション最前線(2/3 ページ)

回路シミュレーションソフトLTspiceやQSPICEの開発者として知られるQorvoのアナログエンジニアMike Engelhardt氏が、QorvoにおけるQSPICEの開発やそれがRFやミックスドシグナルにおけるシミュレーションに与えた影響について語った。

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RF設計エンジニアにとってのメリットとは

――最新のRF設計に携わるエンジニアにとっては、具体的にどんなメリットがありますか?

Engelhardt氏 シミュレーションを行う本質的な意味は、設計対象をより深く理解することにある。設計者にとって、シミュレーションは直感力を養い、回路のさまざまな挙動を探求し、物理的な実験では難しい方法で設計を改善するのに役立つ。RF回路の設計者にとっては、こういった要素がとりわけ重要だ。

 ベースバンド回路と異なり、RF回路はPCBの「寄生素子」に敏感だ。寄生素子とはプリント基板の物理的配置によって生じる想定外のリアクティブ要素を指す。シミュレーションを使えば、こうした寄生素子を取り除いて回路の本質的な挙動に注目して解析できる。寄生効果を切り離せるからこそ、性能に実質的な影響を与える要素を明確に把握できるのだ。

 実機でこうした解析を行うのはまず無理だ。実際のPCBでは寄生素子を「オフ」にすることはできないし、多層基板に組み込んだ部品の配線を変更したり修正したりすることも容易ではない。シミュレーションは自由度の高い環境なので、設計のテストやイテレーションを通じて理解を深めることができる。


出所:Qorvo

――RF技術もギガヘルツ帯域に広がろうとしています。高周波現象をシミュレートする上で、最も大きな課題は?

Engelhardt氏 一番大きな課題は、寄生素子を正確に特定することだ。寄生素子には物理的な配置に起因して発生し、誘導性、容量性、抵抗性のものがある。高周波帯域になると、小さな寄生素子でも回路の挙動に劇的な影響を及ぼす。ワイヤやトレースのインダクタンスの基本式はある程度有効だが、集中定数モデルが通用しなくなる場面では厄介だ。QSPICEには、ソレノイド、ストリップライン、直線配線のモデルが標準で備わっている。

 物質には分散という現象があるため、部品の挙動は周波数によって変化する。誘電体や磁性体などは原子レベルで周波数特性を持つため、広い帯域で通用する集中定数モデルを作成することは、ほぼ不可能だ。こうした場合は、寄生素子を排除しようとするのではなく、その影響を避けられないものとして対策する設計に切り替える必要がある。

――QSPICEでは、RF設計者のユーザー体験向上のため、どのような工夫がされていますか?

Engelhardt氏 大半のCADツールは、最新のユーザーインタフェースに追い付いていない。QSPICEは、人間工学に基づいて直感的に操作できるインタフェースを搭載し、差別化を図っている。例えば、ダイアログがポップアップするとそれまでの作業の流れが止まってしまう。そこで、QSPICEでは回路図上でテキスト編集できる仕様にした。これで、ユーザーは目も頭の中も邪魔されることはない。また、従来のツールバー操作を廃止し、状況に応じて変化する右クリックメニューを採用した。マウスの移動が最小限に抑えられ、ユーザーは作業に集中できる。作業の流れと効率を重視した設計思想になっていて、エンジニアが余計なことに気を散らすことなく設計作業に没頭できるような工夫が凝らされている。


[クリックで拡大]出所:Qorvo

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