前回(第12回)は、アナログ回路のほとんどはデジタル回路と混載されており、アナログ回路とデジタル回路の混載チップ、いわゆる「ミクスドシグナル」と呼ばれるIC製品がごく普通になっていることを説明しました。
ミクスドシグナルICの設計では、デジタル回路の規模が少々増えても構わないから、アナログ回路を減らすとともに、外付け部品を減らすことが求められます。こういった動きとは別に、アナログ回路の性能そのものをデジタル回路によって高める技術の開発が進められています。この技術は「デジタル・アシスト・アナログ(DAA:Digitally Assisted Analog)技術」と呼ばれています。
DAA技術の考え方は、CMOSアナログの微細化と低電圧化によって浮上してきました。アナログ回路では、信号の歪みをオペアンプと呼ばれる増幅回路によって抑制しています。歪みをどの程度にまで抑えられるかは、オペアンプの利得(増幅度)によって決まります。ところがCMOSアナログでは微細化と低電圧化によってオペアンプの利得が低下しており、信号歪みを抑えられなくなってきています。
またミクスドシグナルICとアナログICでは、数多くのトランジスタの特性が均一にそろっていることを前提として動作しているものが少なくありません。トランジスタの特性がばらつくと、アナログICの性能を劣化させてしまいます。このばらつきが、微細化によって増大するのです。だからといって、微細化しないトランジスタを内蔵したり、電源電圧を上げたりすると、シリコン面積の拡大(製造コストの上昇)や消費電力の増大を招きかねません。
こういった問題から、将来の最先端ミクスドシグナルICではDAA技術の導入が必須になると見られています。
例えばデジタル・アナログ変換器(D/A変換器)とよばれる、デジタル入力をアナログ出力に変換するICでは数多くの比較器(コンパレータ)を内蔵していますが、比較器の性能ばらつきが大きいと所望の性能を出すことができません。そこでDAA技術では比較器の性能ばらつきをデジタル回路で補償し、歪みを抑制するのです。このようにして、CMOSの微細化と低消費電力化を維持しながら、要求されたアナログ性能を実現しようとしています。
デジタル回路による補償とは、具体的にはデジタル演算によって補正値を算出し、リアルタイムで補正値をアナログ回路に付加することです。トランジスタの特性ばらつきを補償する、増幅回路の利得のばらつきを補正する、歪みを減らす、といった効果が期待されています。
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アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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