スタート・ストップシステムの設計が容易に、IRジャパンの電源スイッチIC「AUIR3240S」の実力:燃費向上効果は最大15%
市場が急拡大しているスタート・ストップシステムには、エンジン始動時に鉛バッテリーから電圧が低下する際に、各種車載システムに最低限の電圧を供給するための電源安定化回路「ボード・ネット・スタビライザ」が必要になります。このボード・ネット・スタビライザの設計を容易にする電源スイッチIC「AUIR3240S」を展開しているのが、パワー半導体のトップサプライヤであるインターナショナル・レクティファイアー・ジャパン(IRジャパン)です。
現在、自動車のパワートレインの電動化が急速に進んでいます。エコカーの本命となったハイブリッド車だけでなく、電池の電力とモーターだけで走行できる電気自動車やプラグインハイブリッド車にも注目が集まっています。
これらの電動化が進んだ自動車は、信号待ちなどで一時停車している間、モーターはもちろんエンジンも停止しておくことで、従来の自動車がその間に消費していた燃料や二酸化炭素排出量を削減しています。このスタート・ストップ(アイドリングストップとも)と呼ばれる機能は、電動化されていない車両にも「スタート・ストップシステム」として搭載されているのです。
スタート・ストップシステム搭載車は、非搭載の一般車両と比べて、燃費を最大15%程度削減できるといわれています(図1)。この燃費削減効果は、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、電気自動車には遠く及びません。しかし、システムコストが300米ドル程度と安価なため、約1〜2年もあればそのコスト以上の燃料代を節約できます。このため、ハイブリッド車以上に市場が急拡大しているのです。
最近では、スタート・ストップ機能に加えて、減速時のブレーキエネルギーを電力として回生する機能を併せ持つシステムも登場しています。このようなシステムは、マイクロハイブリッドと呼ばれており、最大25%程度までの燃費削減が可能です。
最低限の電圧出力を維持する「ボード・ネット・スタビライザ」
先述した通り、スタート・ストップシステムは、信号待ちや交通渋滞のときにエンジンを停止することで燃料消費を抑えます。エンジンが停止している間は、カーオーディオや照明をはじめ各種車載システムのECU(電子制御ユニット)を動作させる電力は、鉛バッテリーから出力します。
さらに、信号待ちや交通渋滞が終わってエンジンを再始動するときには、大電流が必要なスタータモーター(スタータ)を回さなければなりません。スタータを回す間、鉛バッテリーの出力電圧は6Vまで低下してしまいます。このような場合でも、各種車載システムの動作を維持できるような最低限の電圧を出力できるような仕組みが、電源安定化回路である「ボード・ネット・スタビライザ(Board Net Stabilizer)」です。
ボード・ネット・スタビライザは、不足する電力を供給する補助用の蓄電デバイス(小型の鉛バッテリーやリチウムイオン電池、出力電圧変換用のDC-DCコンバータを備えたキャパシタなど)とパワー・スイッチから構成されます(図2)。
図2 エンジン始動時にメインの鉛バッテリーの出力電圧低下を補う「ボード・ネット・スタビライザ」の構成。ボード・ネット・スタビライザのパワー・スイッチの制御に最適なのがIRの「AUIR3240S」です。(画像をクリックすると拡大)
エンジン始動時以外は、このパワー・スイッチからすべての負荷(車載システム)に対して、最大60Aまでの電流が供給され続けます。そして、エンジン始動時にスタータを回す間だけ、パワー・スイッチは、スタータやメインの鉛バッテリーを負荷から分離し、ダイオードのような動作をします。パワー・スイッチの回路は、導通時の損失を低減するために、複数の低抵抗パワーMOSFETの並列接続によって構成されています。
乗員が車両から降りて駐車している間も、パワー・スイッチはオン状態を維持する必要があります。これは、駐車中も動作していなければならない、インテリジェントキーなどの一部の車載システムに電流を流し続けるためです。
このボード・ネット・スタビライザのパワー・スイッチを効率よく制御するため、パワー半導体のトップサプライヤであるインターナショナル・レクティファイアー(IR)が専用に設計したのが電源スイッチIC「AUIR3240S」です。以下に、AUIR3240Sの機能を確認していきましょう。
ドライバ回路と昇圧型DC-DCコンバータ回路を集積
AUIR3240Sは、パワー・スイッチを構成するMOSFETのゲートとソースを素早く短絡させるためのドライバ回路を集積しています。出力電流は数10mAで、パワー・スイッチをオン状態にするのに十分な値です。このドライバ回路は、電源電圧が4Vまで下がっても動作します。
パワー・スイッチのオン状態を維持するのに必要な、12.5Vの出力電圧を供給するための昇圧型DC-DCコンバータ回路も搭載しています。入力電圧範囲は4〜36Vです。自己消費電流は最大でも50μAと極めて小さい値を実現しました。
AUIR3240Sの周辺回路に必要な外付け部品の点数もわずかです。コイル×1個、昇圧コンバータ用コンデンサ×1個、診断用のいくつかの抵抗だけで済みます(図3、図4)。
個別部品で同等の機能の実現は困難
AUIR3240Sは可変周波数で動作します。オン時間は、電源電圧とシャント抵抗、コイルに依存します。一方、オフ時間は、出力電流によって固定されています。
AUIR3240Sが、パワー・スイッチを構成するMOSFETをオン状態にするとき、つまり鉛バッテリーからの出力電圧が12.5V未満の時、標準値が7.5μsの単安定タイマー(Toff)によって周波数は固定されます。この場合、AUIR3240S内のドライバ回路は、MOSFETのゲートを素早く充電するために数10mAの電流を出力して、パワー・スイッチをオン状態にします。この出力電流の最大値は、コイルとシャント抵抗で調整できます。
いったんMOSFETのゲートに印加される鉛バッテリーからの出力電圧が12.5V以上になるまで充電されれば、AUIR3240Sは、消費電流が50μA以下の低消費電流モードに切り替わります。そして、またゲートが12.5V未満になったときには、再度ドライバ回路が差動するのです。このアーキテクチャによって、AUIR3240Sは、パワー・スイッチを必要なときにオン状態にする機能を備えながら、消費電流を極めて小さいに値に抑えることができるのです。なお、MOSFETのゲートからの放電は、主にドライバ回路のリーク電流によって行います。
このAUIR3240Sと同等の機能を持つ回路を、個別部品を用いて設計しようとすれば、最低でもコンパレータが2個、ゲートIC、レギュレータなどが必要になる上に、大変複雑になります。消費電流を低減することはさらに困難な挑戦になるでしょう。
2つの診断機能
車載システムに最低限の電流を供給するパワー・スイッチを制御する以上、AUIR3240Sには、動作の安全性を確保する診断機能が必須です。AUIR3240Sは、2つの診断機能を備えています。
1つは、出力電流のモニター機能です。これにより、出力電流の平均値や、パワー・スイッチとAUIR3240Sがきちんと接続されていることをモニタリングできます。もう1つは、外付けのNTCサーミスタと接続することで可能になる温度測定機能です。これらの診断機能により、どのような故障も検知できます。
ここまで述べてきたように、AUIR3240Sは、スタート・ストップシステムのボード・ネット・スタビライザを容易に実現するためのさまざまな機能を集積しています。もちろん、車載半導体の品質規格AEC-Q100や、欧州のRoHS指令に準拠しており、ゼロ・ディフェクトを目標とするIRの車載品質イニシアチブの対象製品にもなっています。パッケージは8端子のSOPです。
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提供:インターナショナル・レクティファイアー・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年4月30日