設計者は、しばしば電気的に制御可能なスイッチとしてリレーを使う。その上、リレーの接点はトランジスタとは異なり、制御入力と電気的に分離されている。しかしリレーのコイルにおける消費電力を考えると、電池駆動の機器に使用することは、魅力的とは言えない。
こうした消費電力の問題は、アナログ・スイッチを追加し、リレーを低電圧駆動することで解決できる(図1)。リレーの消費電力は、V2/RCOILで決まる。図1の回路は、動作電圧を通常の5Vよりも低い値にすることで、リレー動作後の消費電力を抑えている。リレーをオンにするために必要なピックアップ電圧は、ドロップアウト電圧を保持するのに必要な電圧よりも高くなければならない。図1に示したリレーのピックアップ電圧は3.5V、ドロップアウト電圧は1.5Vである。入力電圧がこれらの中間値である2.5Vになるとリレーは動作する。表1はリレーの消費電力と固定動作電圧を比較したものである。
スイッチS1を閉じると、リレーのコイルに電流が流れ、さらにコンデンサーC1、C2の充電が始まる。この状態では、入力電圧はピックアップ電圧より低いため、リレーは動作しない。RC時定数は、C2の両端電圧がアナログ・スイッチIC1のしきい値電圧に達する前に、C1がほぼ充電し終わるような値に設定している。C2の電圧がしきい値に達すると、アナログ・スイッチは、C1が2.5V入力とリレーのコイルの両方と直列接続になるように動作する。これによりコイルの両端電圧が5Vに押し上げられ、リレーがオンに切り替わる。コイルの両端電圧は、C1がコイルを介して放電するに従い、2.5V−(D1の両端電圧)まで下がる。しかし、コイルの両端電圧は、リレーのドロップアウト電圧である1.5Vより高いため、リレーはオンのままである。
図1の回路で使用した各素子の値は、リレーの特性と入力電圧によって変わる。R1は、C1を通過する初期のサージ電流*)からアナログ・スイッチを保護する役割を果たす。R1の抵抗値は、C1が短い時間で充電できるように十分に低くすべきである。ただし、アナログ・スイッチをサージ電流から保護するために、十分に高くすることも考慮しなければならない。
*)電源を投入したときや、スイッチをオンしたときなどに瞬間的に現れる大電流。突入電流と呼ぶ場合もある。
アナログ・スイッチIC1のピーク電流は400mAである。サージ電流のピーク値は、IPEAK=(VIN−VD1)/(R1+RON)で計算できる。ここでRONはアナログ・スイッチのオン抵抗(通常は1.2Ω)である。C1の値は、リレーの特性と、VINとリレーのピックアップ電圧の差によって変わる。リレーがオンするために多くのエネルギーが必要な場合は、C1の値を大きくする必要がある。R2とC2は、C2の電圧がアナログ・スイッチのしきい値に達する前に、C1の充電がほぼ完了するような値を選ぶ必要がある。
今回の例では、R2×C2の時定数は、(R1+RON)×C1のほぼ7倍に設定した。R2×C2の値が大きくなればなるほど、スイッチが閉じてからリレーがオンするまでの遅延時間が長くなる。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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