半導体の基礎知識(2)――デジタルとアナログの使い分け:津田建二の技術解説コラム【入門編】
現代の電子機器の多くは、アナログ回路とデジタル回路で成り立っています。昔は全てアナログ回路で構成されていました。今はデジタルに脚光が当てられていますが、アナログもしっかりと使われています。では、なぜ全てアナログで作られていたテレビやVTRはデジタルに置き換えられたのでしょうか。デジタルとアナログの使い分けについて考えてみましょう。
民生機器はアナログからデジタルへ変わってきたと言われていますが、厳密には正しくありません。半導体の基礎知識(1)の図1でお伝えしたように、現代の電子機器の多くは、アナログ回路とデジタル回路で成り立っています。昔は全てアナログ回路で構成されていました。今はデジタルに脚光が当てられていますが、アナログもしっかりと使われています。
第1回を復習するつもりはありませんが、電子システムのシグナルチェーンは図1で、できています。ここにはアナログ回路があふれています。デジタル回路は組み込みシステムと書いた部分です。では、なぜ全てアナログで作られていたテレビやVTRはデジタルに置き換えられたのでしょうか。今回の「基礎知識(2)」では、デジタルとアナログの使い分けについて考えてみましょう。
デジタルのメリット
デジタルの最大の特長は、組み込みシステムと呼ぶ、CPUとROM、RAM、周辺、I/Oからなるコンピュータシステムを構成できることです。単なるデジタルのANDやOR、NOTなどの論理回路だけでシステムを実現しようとしても、さほど大きなメリットはありません。コンピュータシステムではハードウェアだけではなくソフトウェアも使えます。ここが最大のメリットなのです。ハードウェアを変えなくてもソフトウェアを変えるだけで機能を追加・修正できるからです。皆さんの持っているスマートフォンではアプリと呼ばれるアプリケーションソフトウェアをダウンロードすると新機能が追加され便利になります。
デジタルのメリットは他にも、高速通信ができること、データ圧縮が可能、誤り訂正が可能、さらに較正が簡単、などがあります。携帯電話が第1世代のアナログから第2世代のデジタルに移行した場合は、高速通信というメリットを享受しました。アナログだと1回線当たり1通話しかできませんでしたが、デジタルでは1回線に多数の人の通信がパケット伝送によって可能になりました。これによって多くの人々が同時通話できるようになりました。また、データを大きく圧縮できるという強みもデジタルならではの特長です。また、1ビットエラーが起きてもパリティビットを設けることで誤りを訂正できます。センサー信号をデジタル化してメモリに記録しておけば、初期状態からシステムが劣化しても補正値を記録しているメモリからデータに修正するだけで、初期状態を保つことができます。
加えて、オーディオアンプのようにアナログだけの回路にデジタルを利用することによって、これまで実現できなかった機能をもたらすことができます。例えば、サラウンド効果をわずか2個のスピーカーだけで持たせることもできます。前面スピーカー2個しかないのに後ろから音が出たように聞こえる効果を作り出します。これはアナログの音声をデジタルに変え、人間の左右の耳に聞こえてくる音を解析して壁による反射音との干渉などを意図的に混ぜ合わすことで、新しい錯覚の音を作り出すのです。その際、独自のアルゴリズムとその数式表現をICで演算するためのDSPが必要となります。
ASIC(専用IC)はデジタルの論理回路だけで、回路を構成する半導体チップです。機能を変えようとすると、論理回路を追加したり、組み替えたりしなければなりません。ASICも実はアナログ回路に近いのです。ASICもアナログも基本的にソフトウェアは使いません。ASICでは論理回路だけで機能を表現するため、フレキシビリティはありませんが、動作速度は速いのです。アナログ回路もフレキシビリティはありませんが、単純な回路構成で機能を表現できます。しかしコンピュータシステムはソフトウェアで機能を表現するため、動作速度はさほど速くありませんが、フレキシビリティに富んでいます。絶えず規格が変わるような場合にはソフトウェアで、規格が固まり5~6年は変わらない場合にはASICで機能を実現しています。
CPUを利用する組み込みシステムやマイコンはプログラムを自由に組んで、独自の機能を持たせることができます。デジタルカメラも音楽プレーヤーも液晶テレビも基本回路は図1の回路で、できています。ROMに書き込むメモリや周辺回路が違うだけなのです。これらの電子機器は2〜3年でモデルチェンジすることが多いため、ソフトウェアですぐに変えられるということで組み込みシステムを使うのです。
アナログの良さ
しかし、デジタル回路だけでは、1、0あるいはオン、オフしか入力・出力しませんから、意味を持ちません。意味を持たせるためにはデジタル信号の意味をアナログに直して解釈しなければなりません。人間が見たり、聞いたり、触ったりするユーザーインタフェースは、アナログそのものです。人間が作用するものは全てアナログですから、最終的にはアナログへの変換が必要となります。
アナログを使えば、人の楽しさを表現できます。例えばスマートフォンを右や左に90℃傾けると、画面が縦長から横長に変わりますが、これは加速度センサーで画面の位置を検出し、その出力を縦から横(あるいはその逆)に変換しています。重力加速度は常に真下を向いていますから、Z方向の向きを検出できる加速度センサーを使います。加速度センサーからの信号が最大になるZ軸での強度を検出し、ユーザーが見ている画面を回転させます。X、Y軸方向の信号やジャイロ(回転方向)も取り入れると、精度はもっと上がります。
タッチパネルにおいて2本指で画面の拡大・縮小させる機能もアナログの静電容量型タッチで指の動きを検出します。X、Yのマトリクスで1点だけを検出することは何も難しくありませんが、2本の指を同時に、しかも動きまでも検出するとなると、X、Yの検出回路をある周期で時間的にスキャンします。X軸の何番地とY軸の何番地に何時にタッチして、時間とともに位置がどのように変わっていくかを測定します。そのXとYの時間に対する信号波形を読み取り、「拡大」あるいは「縮小」という表現であると解釈します。信号波形は極めてアナログです。
アナログ回路は、昔はアンプやコンパレータ、オペアンプなどが主流でしたが、今はデジタル回路と一緒に使うようになってきているためA-DコンバータやD-Aコンバータも必ず電子機器に組み込まれています。A-D/D-Aコンバータ内蔵のマイコンやSoCも一般的です。また、回路全体に電源を供給するパワーマネジメント回路もIC単体としても、あるいはSoCに集積されている場合もあります。
これまで述べてきたように、ほとんどの電子機器にはアナログ回路とデジタル回路が同居しています。アナログ回路には、上で紹介した加速度センサーやタッチパネルコントローラなど独自の機能を作り出す能力があります。デジタル回路ではむしろソフトウェアそのものが独自の機能、すなわち価値を作り出します。先ほど紹介したサラウンド効果はチップにソフトウェアとして書き込むアルゴリズムがカギとなります。デジタル時代と言っても価値を生むのはアナログ回路だったり、ソフトウェアであったりします。だから、デジタル時代こそ、ますますアナログが必要とされるのです。
提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社 / アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年5月31日
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