SPICE応用設計(その7):W.C解析と設計品質:SPICEの仕組みとその活用設計(18)(4/4 ページ)
今回は、Spiceを少し離れて他のCAEツールのワーストケース解析について簡単に説明するとともに、今までの連載で触れてこなかった解析機能の中から有益と思われる一部の機能について説明をしていきます。
DC感度解析
多くのSpiceにはDC感度解析機能が実装されています。PSpiceを用いて図6の回路のDC出力V(out)の変動感度を求めた例を表2に示します。
表2 DC感度解析結果 (クリックで拡大)
※)表2は商用ツールの試用版の結果ですので1%当たりの感度に換算されていますが、オリジナルのSpice3Fを用いた場合はAC感度解析と同様に1単位変化時の値です
表2を見ると回路図上の全ての部品、サブサーキットの内部定数、および半導体*2の各パラメータの感度まで解析されていることが分かります。
図6の回路図には表2の結果に基づいて1%当たりの変動が大きい順に①〜⑨まで番号をつけました。実際の設計ではこの結果に従って高感度な部品については高精度な部品を使って管理すれば良いことが分かります。
もっとも、サブサーキットの内部まで解析されても設計者としては手の打ちようがないのですが……。
*2)JFETやMOSFETのパラメータは除かれます。
(参考=SPICE2 : A COMPUTER PROGRAM TO SIMULATE SEMICONDUCTOR CIRCUIT Memorandum No.UCB/ERL M520 9 May 1975)
感度解析の課題
AC特性の感度解析結果(周波数特性)を見ればSTEP応答の様子は想像できるのですが細かなスイッチング波形の安定性までは分かりません。例えば、ICの中の回路図でどの定数を大きくすれば、あるいは小さくすれば種々の特性が安定するのかは感度解析の結果だけではムリなのです。
現実的な話としては、対象となりそうな定数についてパラメトリックで値を変化させて応答波形の様子を見るしか手段がないと言えます。
つまり、Spiceを設計に活用するには、「CAEツールは万能ではなく、使い方次第だ」ということを理解した上で「設計者がいかにSpiceと回路の両方を知っているか?」がキーワードになるのです。
「分かって設計する」とはそのようなことなのです。解析ツールは計算ツールにしかすぎないことを自覚しなければ解析ツールを活用した設計は実現できないのです。
Spiceの新しい応用分野
ここまでSpiceを回路設計に適用する観点から機能と忘れがちな注意点を中心に説明してきましたがSpiceの能力は回路設計だけに限られるものではありません。
その一例として次回から数回に渡ってSpiceを回路解析以外の解析に用いた事例を紹介していきます。まずは単純な形状の部品の自然対流における温度上昇解析の結果をCFDツールの結果と比較していきます。
お知らせ
CAEのV&Vのミスから新聞などに掲載されてしまった事例を紹介する番外編「CAEのV&V失敗事例(その1)」は、こちらです。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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