ワイヤレス バッテリ チャージャの設計を簡素化するモノリシック・フルブリッジAutoResonant送電IC:アナログ回路設計講座(8)
徐々に普及しつつあるワイヤレス給電。今回は、シンプルで強力かつ安全なワイヤレス送電回路の構築方法を紹介する。受電装置の負荷要件に応じて出力電力を調整する機能や導電性異物の存在を検出する機能を備えつつ、ワーストケースの電力伝送条件下で電力の供給を保証するために強い磁界を生成できるワイヤレス送電回路だ。
はじめに
バッテリは日常の製品で幅広く使われるようになっています。これらの製品の多くは充電用コネクタの使用が困難か不可能です。例えば、過酷な環境から敏感な電子回路を保護したり、洗浄や消毒を便利にしたりするため、密閉された筐体を必要とする製品もあります。また、単に小さすぎてコネクタが収まらない製品や、可動部分や回転部分を含むバッテリ駆動アプリケーションで有線による充電を考慮していない製品もあります。ワイヤレス充電は、これらのようなアプリケーションに付加価値を与え、信頼性と堅牢性を高めます。
電力をワイヤレスで供給する方法は数多くあります。数インチ未満の短い間隔では、一般に容量性や誘導性の結合が使われます。本稿では、誘導性結合を使ったソリューションについて説明します。
標準的な誘導性結合のワイヤレス電源システムでは、送電コイルによってAC磁界を生成し、これが一般的なトランス・システムのように受電コイルにAC電流を誘導します。ワイヤレス電源システムがトランス・システムと大きく異なる点は、送電コイルと受電コイルを分離するのがエア・ギャップかその他の非磁性体材料のギャップかということです。さらに、送電コイルと受電コイルの間の結合係数は一般に非常に小さい値です。トランス・システムの結合係数は0.95〜1が一般的ですが、ワイヤレス電源システムの結合係数は0.8から0.05までの値になります。
ワイヤレス・バッテリ充電の基本
ワイヤレス電源システムは、エア・ギャップで分離された2つの部分(送電コイルを含む送電(TX)回路と受電コイルを含む受電(RX)回路)で構成されます。
ワイヤレス電源によるバッテリ充電システムを設計する場合、キーとなるパラメータは実際にバッテリにエネルギーを加える電力の大きさです。この受信電力は以下を含む多くの要因に依存します。
- 送信される電力の大きさ
- 送電コイルと受電コイルの間の距離と位置(一般にコイル間の結合係数で表される)
- 送電部品と受電部品の許容誤差
ワイヤレス送電装置の設計の主要目的は、送電回路が強い電界を発生する能力を実現し、ワーストケースの電力伝送条件下で必要な受信電力の供給を保証することです。ただし、ベストケースの条件での受電装置の熱的および電気的オーバーストレスを避けることも同様に重要です。出力電力要件が小さく、結合が大きい場合、これは特に重要になります。1つの例は、RXコイルがTXコイルの近くに置かれた状態でバッテリが満充電されたときのバッテリ・チャージャです。
LTC4125を使用したシンプルながらフル機能の送電ソリューション
LTC4125送電ICは、リニアテクノロジーの製品ラインアップの各種バッテリ・チャージャICの1つ、例えばLTC4120(ワイヤレス・パワー・レシーバおよびバッテリ・チャージャIC)を受電装置として組み合わせるように設計されています。
LTC4125は、シンプルで強力かつ安全なワイヤレス送電回路に必要な全ての機能を備えています。具体的には、受電装置の負荷要件に応じて出力電力を調整する機能および、導電性異物の存在を検出する機能です。
前に説明したように、ワイヤレス・バッテリ・チャージャ・システムの送電装置は、ワーストケースの電力伝送条件下で電力の供給を保証するために強い磁界を生成する必要があります。この目的を達成するため、LTC4125は独自のAutoResonant技術を採用しています。
LTC4125のAutoResonant駆動回路により、各SWピンの電圧がピンに流れ込む電流と常に同位相になります。図2に示すように、SW1からSW2に電流が流れる場合、スイッチAとスイッチCがオン状態でスイッチDとスイッチBがオフ状態です。また、その逆の場合も同様です。この方法で駆動周波数をサイクルごとにロックすることにより、LTC4125は常に外部LC回路を共振周波数で駆動することができます。これは、温度や近くの受電装置の反射インピーダンスなどのLCタンクの共振周波数に影響を与える変数が連続的に変化しても同様です。
LTC4125はこの技術を使って、内部フルブリッジ・スイッチの駆動周波数を絶えず調整し、直列LC回路の実際の共振周波数に一致させます。LTC4125はこのようにして、高いDC入力電圧も高い精度のLC値も必要とせずに、送電コイル内に大きな振幅のAC電流を効率的に生成することができます。
また、LTC4125は、フルブリッジ・スイッチのデューティ・サイクルを変えることにより、直列LC回路両端の波形のパルス幅を調整します。デューティ・サイクルが高くなるように調整することによって直列LC回路により大きな電流が生成されるため、受電装置の負荷により大きな電力が得られます。
LTC4125は、このデューティ・サイクルを周期的に掃引し、受電装置の負荷状態に対する最適動作点を探します。このように最適電力点を探すことにより、コイルの大きなエア・ギャップや位置ずれの動作耐性を許容し、全てのケースの受電回路に対する熱的および電気的オーバーストレスを避けます。各掃引の間隔は1個の外付けコンデンサで容易に設定できます。
図1に示したシステムは大きな位置ずれに対して非常に高い耐性を持ちます。コイルの位置ずれが大きいと、LTC4125は発生する磁界強度を調整し、LTC4120が十分な充電電流を受け取れるようにすることができます。図1に示したシステムでは、最大12mmの距離で最大2Wを伝送することができます。
導電性異物の検出
実現可能なワイヤレス送電回路に不可欠なもう1つの機能は、送電コイルによって生成される磁界に置かれた導電性異物の存在を検出できることです。受電装置に数百ミリワットを上回る電力を供給するように設計された送電回路は、異物内に渦電流が生成されて望ましくない発熱が生じないように、導電性異物の存在を検出する能力を必要とします。
LTC4125のAutoResonantアーキテクチャにより、導電性異物の存在を検出する独自の方法を実現できます。導電性異物があると、直列LC回路の実効インダクタンス値が減少します。これにより、AutoResonantドライバが内蔵フルブリッジの駆動周波数を上昇させます。
図4のグラフは、導電性異物が存在する場合と存在しない場合の、送電コイルに生成される電圧の周波数を比較したものです。
抵抗分圧器を使って周波数制限値を設定することにより、LTC4125は、AutoResonantドライバがこの周波数制限値を超える時間に駆動パルス幅をゼロまで低減します。LTC4125はこのようにして、導電性異物の存在を検出したときに全ての電力供給を停止します。
この周波数シフト現象を使って導電性異物の存在を検出する場合、検出感度が共振コンデンサ(C)および送電コイルのインダクタンス(L)の部品許容誤差との直接的なトレードオフになる可能性があることに注意してください。LとCのそれぞれの値の標準的な初期許容誤差が5%の場合、この周波数制限値は、異物検出の適度な感度と堅牢な送電回路設計のための標準的なLC値から予想される固有周波数より10%高い値に設定される可能性があります。ただし、許容誤差が1%の厳しい値の部品を使うことで、周波数制限値を、検出感度を高くしながら設計の堅牢性を維持するための標準的な予想固有周波数より3%だけ高い値に設定することができます。
電力レベルの柔軟性と性能
抵抗とコンデンサの値を多少変えるだけで、同じアプリケーション回路を大電力充電用の異なる受電ICと組み合わせることができます。
送電回路の高効率フルブリッジ・ドライバおよび受電回路の高効率降圧スイッチング・トポロジーにより、最大70%の総合システム効率を達成できます。この総合システム効率は、送電回路のDC入力から受電回路のバッテリ出力までを計算したものです。2つのコイルのクオリティ・ファクタおよびこれらの結合は、他の回路実装と同様にシステムの総合効率にとって重要なことに注意してください。
LTC4125のこれらの機能は全て、送電コイルと受電コイルの間で直接情報をやりとりすることなしに行われます。これにより、最大5Wの各種電源要件および、さまざまな物理的なコイル機構に対応する、シンプルなアプリケーション設計が可能になります。
図6は、LTC4125の標準的なアプリケーション回路が小さい外形寸法であるとともにシンプルなことを示しています。前に説明したように、機能の大部分は外付けの抵抗やコンデンサを使ってカスタマイズすることができます。
まとめ
LTC4125は強力な新規のICで、安全でシンプルかつ高効率のワイヤレス送電装置を形成するのに必要な全ての機能を提供します。最適な電力探査と周波数シフトを使った導電性異物検出を行うAutoResonant技術により、距離と位置の許容範囲が非常に広いフル機能ワイヤレス送電装置の設計が容易になります。LTC4125は、堅牢なワイヤレス送電装置の設計においてシンプルで優れた選択肢の1つです。
【著:リニアテクノロジー/Eko Lisuwandi(パワー製品 デザインセクションリーダー)】
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提供:リニアテクノロジー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年10月31日