漏れインダクタンスを使用したフライバックコンバーター(3) 小信号モデル化:電源設計(6/6 ページ)
この連載の最終回にあたる第3回では、電圧モードで動作し漏れインダクタンスの影響を受けるCCMフライバックコンバーターの小信号応答について検討します。第2回で紹介した更新後の大信号モデルから、最も簡潔なリニアバージョンを確立する目標に向けてステップ形式で作業を進め、徐々に簡略化した小信号回路図を導き出します。この最終的な回路に基づいて、制御側から出力側への伝達関数を抽出し、漏れインダクタンスが伝達関数の分母である品質係数にどのような影響を及ぼすかを示します。
漏れインダクタンスと品質係数
これで導出したモデルが正しいことを確認できたので、図1の回路をac掃引し、振幅曲線と位相曲線が漏れインダクタンスから受ける影響を観察します。漏れインダクタンスが小さい場合、Qが大きくなり10dBを上回ります。漏れインダクタンスが大きくなると、スイッチングサイクルごとにより多くのエネルギーが失われ、品質係数は小さくなります。インダクタンス値が30μHと大きい場合は、システムが過度に減衰するようになります。
図15で、Q対漏れインダクタンス値をプロットし、フライバックコンバーターへの減衰効果を確認しました。
電流モードで、漏れインダクタンスを含めたにもかかわらず、デューティ比の低下現象は発生しません。これはピーク設定ポイントを満たすようにtonが自然に拡大されるので、ピーク電流は影響を受けないためです。電流モード制御(CCM)におけるスイッチのデューティ比は次式で示せます(詳細説明は参考資料[1]参照)。
ここで、Fswはスイッチング周波数、Vcは制御電圧、Riは検知抵抗、Icは式19で定義されている端子「c」を流れる電流、Saは外部補償ランプ、Vacは端子「a」と「c」間の電圧です。漏れインダクタンスを大きくしたにもかかわらず、実効デューティ比(スイッチのデューティ比が漏れインダクタンス磁化時間によって減少)はほぼ一定です。したがって、出力電圧に影響するのは主に2次側電流における遅延です。ただし、電流モード制御での出力電圧低下は、電圧モード・コンバーターの出力電圧低下より小さくなります(図16)。
まとめ
最終回として、CCMで動作する電圧モードのフライバックコンバーターにおける制御側から出力側への伝達関数について説明しました。漏れインダクタンスを大きくすると、信号源クランプの消費電力が増大し減衰が発生します。従来の式はこの動作を予測しないので、新しいモデルを導く必要がありました。線形化プロセスを進める過程で、新しい小信号伝達関数が確立され、漏れインダクタンスが品質係数に影響することが判明しました。ただし、電流モード制御の場合、漏れインダクタンスから受ける影響は小さくなります。参考資料[2]と[3]に示す資料は、漏れ要素の影響を認識していますが、更新後の伝達関数式における漏れ要素の影響は公式化していません。この今回の記事で公式化を行っています。
参考資料
[1]C. Basso, “Switch Mode Power Supplies: SPICE Simulations and Practical Designs”, second edition, McGraw-Hill 2014, ISBN 978-0071823463
[2]H. Terashi, T. Ninomiya, “Analysis of Leakage Inductance Effect on Characteristics of Flyback Converter Without Right Half Plane Zero ”, Power Electronics and Motion Control Conference, 2004. IPEMC 2004. Vol. 3
[3]K. Rustom et al., “Unified Flyback Switching-Cell Model Including the Leakage Inductance Effects for SPICE Simulation”, Power Electronics Specialist Conference, 2003. PESC '03. 2003
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