輝度をスムーズに制御できるLED調光回路:Design Ideas ディスプレイとドライバ
白熱灯は明るさをスムーズに調整できる。だが、LEDは何も工夫せずに調光しようとすると、ほとんど点灯していない状態からほぼフル発光へと一気に遷移してしまう。これが、白熱灯からLEDへの置き換えの問題点を浮き彫りにする。LEDに置き換えるには、どんな工夫が必要なのだろうか。
交流電源のみで調光可能な回路を応用
近年、信号機や車のヘッドライトなどの光源が白熱灯からLEDに置き換わっている。LEDの消費電力は白熱灯の約10分の1と少ない上、寿命が半永久的と極めて長いなど、利点が多いからである。家庭の照明もLEDに置き換わる日が来るかもしれない。
だが、照明に求められるのは、単純な点灯と消灯だけではない。調光動作も要求される。これが、白熱灯からLEDへの置き換え時の問題点を浮き彫りにする。LEDは順方向電圧VFが低いと順方向電流IFが流れず、発光しないからである(図1)。しかも、IFがいったん流れ始めるとVFに対してIFが急増するため、LED照明を調光しようとすると、ほとんど点灯していない状態からほぼフル発光へと遷移してしまう。このため、明るさをスムーズに調整するのは難しい。
例えば、自転車用の発電機付きライトを想像していただきたい。白熱灯であれば、ペダルをこぐスピードに比例した明るさが得られる。しかし、LEDに置き換えると発光するのにある程度のスピードを必要とする上に、発光してからは強弱の変化をほとんど感じることができないだろう。
この問題を解決する基本回路が、図2である。IFが流れ始める寸前の状態になるようVFを印加しておく。このVFは、一般的な白色LEDであれば2.4V前後である。調光用のVFを、直流電圧に重畳する交流電圧が担う。これにより、白熱灯と同様に、発光強度は印加電圧にほぼ比例するため、白熱灯用の位相制御型調光器を利用することができる。正の半サイクル時に、電流は制限抵抗R1→LEDの経路を流れ、LEDが点灯する。負の半サイクル時は、C1からD1に電流が流れ、発光しない。この基本回路では半サイクルごとに点灯するため、周波数によってはちらつきを感じる。
そこで、トランスの2次巻線を組み合わせて正負両サイクルで発光させる回路が図3である。全波整流電圧がLEDにかかるため、ちらつきが少ない。正の半サイクルでは、C11→D11と、D22→R1→LEDという経路で電流が流れる。負の半サイクルでは、D12→R1→LEDと、C21→D21という経路で電流が流れる。また、図2の電池Bat.をC1、C2、D1、D2から成る倍電圧整流回路に置き換えて、交流電源だけで動作させている。
このような工夫によって、調光できる照明器具の光源を従来の白熱灯からLEDに置き換えることができる。商用電源に直接つなぐときは、過電圧に対して保護するため、入力とD1のアノードとの間に0.47μF程度の容量を挿入してバイアスを絞り、LEDを複数直列に接続するなどの工夫が必要になる。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事から200本を厳選し、5つのカテゴリーに分けて収録した。
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