DC-DCコンバーターの効率と2種類のPWM制御モード:DC-DCコンバーター活用講座(8) 電力安定化(8)(3/3 ページ)
今回の記事では、DC-DCコンバーターの効率についての考え方と、2種類のPWM制御モードについて解説します。
電流モードレギュレーション
電流モードのスイッチングレギュレーターには、2つの制御ループが存在します。スイッチおよび誘導性保存素子の電流レギュレーションを行う内部ループと、従来通り内部レファレンス電圧を基準に出力電圧レギュレーションを行う外部ループです。制御回路は異なる速度で動作しますが、この点は極めて重要です。電流制御ループはパルスごとに反応し、電圧制御ループははるかに低速ですが、時間軸に対して安定した出力電圧を生成します。
最初に、図2のブロック図から考えてみましょう。スイッチング制御素子はRSフリップフロップで、これは各クロック周期の開始時にセットされます。出力は、メインパワースイッチをオンにして、出力電流のランプアップを開始させるために使われます。フリップフロップのリセット入力は、PWMコンパレーターA2によって制御されます。この反転入力には電圧制御アンプA1の出力が使われ、非反転入力には電圧VSが使われます。VSは、シャント抵抗RSの両端で測定したスイッチ電流値に比例します。エラーアンプ電圧VFがVSを超えると、コンパレーターがフリップフロップをリセットします。周期の残りの部分では、主発振器がもう一度セットされるまで、フリップフロップによってその他の不適切なトグル操作が排除されます。
この構成には、2つの重要なポイントがあります。
1つ目は、入力電圧の変化は充電電流の立ち上り速度と持続時間にしか影響しないので、誘導性保存素子は入力電圧に関わらず常に同じエネルギーレベルで完全充電状態になります。コンバーターは入力電圧には影響されず、電圧制御ループが介在する必要はありません。したがって、このコンバーターは入力電圧変化をパルスごとに安定化します。
2つ目は、VOUT帰還電圧はレファレンス電圧とバランスしなくなるので、負荷が変化すると外部制御ループが反応します。例えば、負荷が突然増大すると出力電圧が低下し、これによってVFが増加して充電時間が延長されます。初期段階では、内部制御ループは出力電圧が増加して必要な安定化電圧値に戻り、VFが低下してVSがレギュレーションの制御を再び引き継ぐまで、レギュレーションを行ないません。
電流モードレギュレーションは電圧モードレギュレーションより高速で、ほとんどの設計に適しています。このモードでは、負荷または入力電圧の変化への応答が1発振周期以内に開始されますが、安定した動作状態の間も厳密にレギュレーションされた出力電圧の供給を続けるという一対の利点を備えています。
電流モードレギュレーションの欠点の1つは、追加された検出抵抗よって効率が低下することです。この効率低下を最小限に抑えるために、抵抗はできるだけ小さい値とする必要がありますが、一方で抵抗両端の電圧差を十分な値としてPWMコンパレーターがクリーンにスイッチングを行えるようにするために、ある程度大きな値にする必要もあります。したがって、電流モードPWMコンパレーターにはより高い品質が求められ、電圧モードのPWMコンパレーターより入力オフセットドリフトが小さく、より良好な熱安定性を備えている必要があります。
⇒「DC-DCコンバーター活用講座」連載バックナンバーはこちら
(次の記事を読む)
※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- PWM制御ICで高電圧からLEDを駆動する
LED電流を一定に保ちたい場合、幅広い電圧範囲の直流電源でLEDを直接駆動することは難しい。通常は、電圧レギュレーター回路が必要だが、かなりの電力が消費されてしまう。LEDの駆動に特化した専用ICも多く存在するが、比較的低い電圧を昇圧してLEDを駆動するものがほとんどだ。今回はPWMコントローラーICで、高電圧入力から定電流を発生させてLEDを駆動する回路を紹介しよう。 - 電流モード制御DC-DCコンバータの特性改善
電流モード制御のDC-DCコンバータは、どの位置で電流検出を行うかによって特性が大きく左右される。本稿では、従来の設計の問題点を指摘するとともに、DC-DCコンバータの種類ごとに電流検出の最適な位置について解説する。 - LED照明に適したPWM方式の定電流源回路
多くのLEDを使用するには、電流制限抵抗を使用せずに、効率良く電力を供給する必要がある。今回は、約20個のLED群に対する低コストの定電流源として使用できる回路を紹介する。 - DCモーターの性能線図を理解して高効率駆動について考えてみよう
今回は、ブラシ付きDCモーターの特長と性能線図を解説していこう。重要なポイントを押さえながら、誘起電圧の与える影響を理解し、高効率駆動のための印加電圧位相を考えよう。 - 加速する電源回路のデジタル化
電源回路の制御処理をデジタル化するニーズが高まっている。だが、そのすべてをデジタル化するのは処理速度やコストの面で現実的ではない。アナログ回路とデジタル回路を適切に組み合わせることで、最良の電源回路を実現できる。 - デジタル制御電源を学ぶ(1) デジタル電源は何がどう「デジタル」なのか
最新の設計技術のノウハウを学べる新連載「Design Hands-on」をスタートします。第1弾のテーマは、太陽光発電や自動車、LED照明などで採用が増えている「デジタル制御電源」です。国内の半導体ベンダーでデジタル制御電源を手掛ける新日本無線の技術者が、理論から実践まで詳しく伝授します。