車載ECUにも“超”の付く小型、低消費電力の電源ICを ―― オートモーティブワールド「トレックス」ブースレポート:モバイル機器、ウェアラブル端末で培うノウハウを応用
電源IC専業メーカーのトレックス・セミコンダクター(以下、トレックス)は、2019年1月16〜18日に東京ビッグサイトで開催された展示会「第11回 オートモーティブ ワールド」に出展し、超小型/超低消費電力電源IC技術を応用したユニークな車載用電源ICの提案を実施した。出品製品の中には、36V対応同期整流式DC/DCコンバータとして世界最小クラスのパッケージサイズを実現する次世代車載電源ICも含まれ、大きな注目を集めた。同社ブースの展示製品についてレポートする。
超小型、超低消費電力の電源IC技術を自動車にも――。
電源IC専業メーカーのトレックス・セミコンダクター(以下、トレックス)は、2019年1月16〜18日に東京ビッグサイトで開催された展示会「第11回 オートモーティブ ワールド」に出展し、モバイル機器やウェアラブル端末などで培った超小型/超低消費電力電源IC技術を応用したユニークな車載用電源ICの提案を実施した。出品製品の中には、36V対応同期整流式DC/DCコンバータとして世界最小クラスのパッケージサイズを実現する次世代車載電源ICも含まれ、大きな注目を集めた。そこで、第11回 オートモーティブ ワールドのトレックスブースの展示製品についてレポートしよう。
小型化ニーズが急速に高まる車載ECU市場
ご存じの通り、自動車はさまざまなADAS(先進運転支援システム)を搭載し、自動運転の実現へ着実に歩みを進めている。こうした自動運転化の流れに伴い自動車に搭載されるECU(電子制御ユニット)の数は増加の一途をたどっている。
そのため、ECUの部品実装密度は高まる傾向にあり、高密度実装が特に求められている代表的な例が車載カメラだ。車載カメラは、自動車の周囲状況をモニターへ表示するビューイング用途の他、障害物や歩行者等を把握する上で、欠かせないセンサーである。車載カメラは、スペースの余裕が既にない自動車に搭載しなければならず、サイズを小さくすることが求められている。小型化が要求されるのは、カメラの主要部品だけでなく、電源部も含め、あらゆるデバイスに小型化が迫られている。
電源部を小型化する手法としては、複数の電源系統を一元的に制御するシステム電源(パワーマネジメントIC /PMIC)が用いられる。ただ、PMICは、電源部を小型化できるものの、デバイスのレイアウトに多くの制約が生じる。そのため、各電源系統それぞれに、単体の電源ICを配置することになるが、その個数は多く、カメラのサイズ縮小を阻む一つの要因となっている。
そうした中でトレックスは、単体電源IC構成ながら、電源部の面積を大幅に縮小する車載向け電源IC群「XDL」を開発し、2018年末から量産を開始した。
コイル一体型の「“micro DC/DC”コンバータ」で車載版が登場
XDLは、トレックス独自のコイル一体型DC/DCコンバータ「“micro DC/DC”コンバータ」の車載版。DC/DCコンバータICとコイルを一体化することで、電源回路サイズを小型化でき、モバイル機器やウェアラブル端末など高密度実装ニーズの高い用途を中心に、既に1億個以上の出荷実績を持つ。“micro DC/DC”コンバータは、ノイズの発生源であるDC/DCコンバータICとコイル間の配線長が短くなりノイズ抑制効果も得られる他、電源設計時の面倒なDC/DCコンバータICとコイルのマッチング作業も不要になるなどの利点もある。「これまでもモバイル機器に限らず、車載情報機器や産業機器などでも広く採用されてきた」(トレックス)という。
その中で、XDLは、車載市場特有のニーズに応えるための車載版“micro DC/DC”コンバータとして開発された。“micro DC/DC”コンバータ初の車載IC品質規格「AECーQ100(Grade2)」に準拠し、動作保証周囲温度−40〜+105℃を実現した。さらに、XDLは、リードレスのDFNパッケージながら、ハンダ接合部を外観でチェックできる「ウェッタブルフランク構造」と呼ばれる端子形状を採用。車載市場での要求が強い「ハンダ接合部の自動外観検査対応」を、省サイズのリードレスパッケージで実現した(参考記事:小型リードレスパッケージでも自動外観検査に対応! 車載専用の“コイル一体型”DC/DCコンバータが登場)
このほど量産が始まったXDLの第1弾製品群「XDL601/XDL602シリーズ」は、入力電圧範囲2.5〜5.5Vで、出力電圧0.8〜3.3V、最大出力電流1.5Aの高効率降圧型DC/DCコンバータ。パッケージサイズは、3.6×2.5×1.6mm。コイルを外付けする従来型の同等DC/DCコンバータに比べ電源回路サイズを50%以上削減でき、「単体のDC/DCコンバータながら、カメラモジュールなどの電源部を縮小できる電源ICとして、多くの引き合いを得ている」(トレックス・セミコンダクター)という。
コイル一体型で3.6×2.5×1.6mmという小型パッケージサイズを実現した背景には独自のパッケージ技術やコイルメーカーと連携したコイル実装技術とともに、DC/DCコンバータチップ自体の小型化、高性能化も必須になる。
XDL601/XDL602シリーズが搭載するDC/DCコンバータICチップは、2.0×1.8×0.6mmの超小型パッケージ(USPー6C)に封止したDC-DCコンバータIC「XD9260/XD9261シリーズ」(AECーQ100 Grade2準拠)としても販売している。トレックス独自の高速負荷過渡応答技術「HiSATーCOT制御」を用い、従来製品に比べ出力電圧ドロップ量を2分の1に下げ、応答速度も8倍に高めている。またHiSATーCOT制御は、一般的なCOT制御にみられる負荷と入力電圧の変動に伴い生じるスイッチング周波数の変動が小さいという特長を備え、ノイズ対策が容易という利点も備える。こうしたDC/DCコンバータICチップ自体の優れた特性により、コイル一体型の“micro DC/DC”コンバータとしても、優れた性能を発揮できるわけだ(参考記事:高速過渡応答DC-DCコンバータの決定版! COT制御の弱点を克服した「HiSAT-COT」とは)
開発中の車載向け高耐圧電源ICも披露
トレックスでは、車載用途に向けたDC/DCコンバータICチップの開発を積極的に進めていて、第11回 オートモーティブ ワールドブースでは、まもなくサンプル出荷を開始する予定のDC/DCコンバータICの展示を実施した。
その一つが、最大定格20Vで入力電圧範囲を3.0〜18Vに広めた500mA降圧同期整流DC/DCコンバータ「XD9263/XD9264シリーズ」だ。「XD9260/XD9261シリーズおよび、XDL601/XDL602シリーズは、5V系の電源から、マイコンやイメージセンサーに必要な1〜3.3V系電源に変換するICだったが、XD9263/XD9264シリーズは、他のECUから供給される8〜9Vといった、より高い電圧の電源を降圧変換し供給できる耐圧を実現した」(トレックス)という。XD9260/XD9261シリーズの高耐圧版と言える位置付けのXD9263/XD9264シリーズだが、パッケージはXD9260/XD9261シリーズと同様のUSPー6C(2.0×1.8×0.6mm)を採用し、超小型サイズを実現している。
「車載用途での8〜12V系からの軽負荷の降圧には従来、電圧レギュレータが用いられる場合が多かった。電圧レギュレータの場合、損失が大きく、放熱性を考慮し、電源部の基板サイズが大きくなった。XD9263/XD9264シリーズはそうした従来の電圧レギュレータに比べ、電源サイズを3分の1まで縮小でき、発熱も3分の2削減できる。また、XD9264シリーズはスイッチング方式をPWM(パルス幅変調)方式とPFM(パルス周波数変動)方式を自動で切り替えるため、軽負荷時も含め80%を超える変換効率を実現し、電圧レギュレータに比べ消費電力を半減できるメリットがある」(トレックス)という。XD9263/XD9264シリーズは、2019年4月にサンプル出荷を開始する予定。さらに2019年6月には、XD9263/XD9264シリーズのチップとコイルを一体化し「“micro DC/DC”コンバータ XDL603/XDL604シリーズ」としてもサンプル出荷を開始する。「XDL603/XDL604シリーズについても、XDL601/XDL602シリーズと同一サイズのウェッタブルフランク構造のDFNパッケージを採用し、車載カメラなどを中心に提案していく」という。
36V入力対応のDC/DCコンバータでも「世界最小クラス」の超小型サイズを実現へ
さらに、今回のオートモーティブ ワールドのトレックスブースでは、最大定格40V、入力電圧3.0〜36Vを実現する600mA降圧同期整流DC/DCコンバータ「XD9267/XD9268シリーズ」を展示した。車載バッテリーから直接、マイコンやセンサーなどに向けた電力を生成できる耐圧を持ちながら、パッケージは、XD9260/XD9261シリーズ、XD9263/XD9264シリーズと同じUSPー6Cを採用。トレックスでは、「36Vクラスの同期整流DC/DCコンバータとしては、世界最小クラスのパッケージサイズ」と胸を張る。18VクラスのXD9263/XD9264シリーズと同じ特長を備え、従来の電圧レギュレータからの置き換えに最適だ。
XD9267/XD9268シリーズは2019年5月にサンプル出荷を開始する予定。さらに2019年7月には、コイル一体型の「“micro DC/DC”コンバータ XDL605/XDL606シリーズ」として、サンプル出荷を開始する。XDL605/XDL606シリーズもパッケージは、XDL601/XDL602シリーズ、XDL603/XDL604シリーズと同一サイズのものを採用する予定」とし、同一サイズで、低耐圧から高耐圧品までの車載用“micro DC/DC”コンバータのラインアップが整う見込みだ。さらに「将来的には、入力60V対応など、より高耐圧を実現するDC/DCコンバータも製品化し、48V系電源に対応する車載用“micro DC/DC”コンバータも提供したい」としている。
バッテリーメーカーと協業し、ウェアラブル向け超小型電源ICの開発も加速
車載用途に向けた小型、低消費電力の電源ICを拡充するトレックスでは並行して、IoT機器やウェアラブル端末などに向けて、より先進的な小型、低消費電力電源ICの開発を進めている。
オートモーティブワールド トレックスブースでは、先進の小型、低消費電力電源IC技術の一例として、超薄型ラミネート電池や超小型コイン電池といった次世代小型二次電池に適した超小型、低消費電力電源ICソリューションの展示を実施した。トレックスでは現在、FDK、日本ガイシ、ニチコンといったバッテリーメーカーと協業して、次世代小型二次電池に適した充電/電源ソリューションの提案を実施している。
例えば、ディスプレイや指紋認証センサーを備える「スマートカード」にも搭載可能な超薄型ラミネート電池に最適な充電/電源ICとして、パッケージの高さをわずか0.33mmに抑えた製品群をラインアップ。厚さ0.76mmと国際的に規定されるクレジットカードやキャッシュカードに搭載可能な充電/電源ICとして、スマートカード化が進む海外を中心に採用が進んでいるという(参考記事:高さ0.33mm! “極薄アナログIC”が誕生した理由)
その他、次世代小型二次電池に用いられることが多い、充電電圧が従来のリチウムイオン電池などよりも低いチタン酸リチウム電池に対応する充電/電源ソリューションなども紹介した。
トレックスでは「今後も、IoT機器やウェアラブル端末などの市場で、小型、低消費電力電源IC技術を磨き続け、そこで培った技術を高い信頼性が求められる車載市場や産業市場向けにも応用していく」としている。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年3月12日