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デルタ−シグマADCでの電圧リファレンスノイズの影響アナログ設計のきほん【ADCとノイズ】(8)(3/3 ページ)

さまざまなノイズ源が高精度デルタ−シグマADCに与える影響をより深く理解するために、電圧リファレンスノイズについて取り上げます。

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リファレンスノイズへのゲインの影響

 この例では、引き続き図3に示したREF6025を使って、24ビット、デルタ−シグマADC「ADS1261」と組み合わせます。このADCは低ノイズで、プログラマブルゲインアンプ(PGA)が内蔵されており、この両方の特長からリファレンスノイズとゲインとの関係がよりはっきりします。これらの選択だけでなく、ADCと電圧リファレンスのどの組み合わせにもこの解析を適用することができます。図4に、この例の構成を示します。


図4:「ADS1261」および、「REF6025」を使用したシステム構成

 連載第6回のアンプのノイズ解析と同様に、図4の部品を「ノイズなし」デバイスと、各コンポーネントのノイズに相当する前段の電圧源とに分解できます。ADCノイズ(VN,ADC)はADS1261のデータシートから直接読み取れますが、電圧リファレンスノイズ(VN,REF)はREF6025のデータシートとシステムのENBWを使って計算する必要があります。幸い、第5回で説明した概算を求める方法を使って、システムENBWを確定することができます。この場合、60サンプル/秒(SPS)の出力データレート(ODR)とADS1261の低レイテンシフィルターを使用するとき、ENBWは13Hzになります。これにより、REF6025を使用するとき、ノイズが約1.2μVRMSであると導かれます。

 最後に、利用可能なすべてのADCゲインを使用できるような入力信号を選択しなければなりません。ADS1261の最大ゲインである128V/Vを使用すると、2.5Vのリファレンス電圧を使用したときの最大差動入力電圧は±19.5mVです。表1は、このシステム仕様をまとめたものです。

表1:「ADS1261」と「REF6025」を使用した例のシステム仕様
パラメーター
入力信号(mV) ±19.5
ENBW(Hz) 13
REF6025のノイズ(μVRMS 1.2(13Hz時)
ADCデータレート(SPS) 60
フィルターの種類 SINC 4
ADCゲイン 1:128(バイナリ)
ADS1261のノイズ データシートを参照してください

 これで、ADS1261のPGAのゲインの関数として各部のノイズをプロットし、ゲインがADCとリファレンスノイズに与える影響を確認できるようになりました。それぞれの段でのシステムの有効分解能を計算して、リファレンスノイズの侵入がシステムのダイナミックレンジに与える影響を把握することもできます。この状況の「有効分解能」は19.5mVの信号を使って算出されており、ADCのデータシートで一般的なように各ゲイン設定で使用可能な最大FSRを使用していないことに注意してください。図5に、ADS1261のプロット図を示します。


図5:ゲインの関数としての「ADS1261」のノイズ、リファレンスノイズ、有効分解能

 図5からは、正のフルスケール範囲を100%使用したときでも、ADCノイズと比べてリファレンスノイズがほぼ無視できる程度であることが分かります。入力電圧が非常に低いため、ゲインが変化してもシステムに入るリファレンスノイズの量に影響はありません。しかし、ゲインの変化によりADCノイズが低減することで、(予想通り)実際に総ノイズが低減しました。

 興味深いのは、図2図5の両方ともに(アンプのノイズ解析のときと同様に)有効なFSR使用率に限界があることです。この限界点以上に入力信号を上げても、システムノイズの観点からはメリットはありません。図2では、使用率が40%のときにそうなります。図5では、有効分解能曲線が平らになり始めるおおよそ32V/Vのゲインからこの限界が始まります。

 (これらの限界点は、この入力電圧、ノイズ帯域幅、ADCおよび、リファレンスの組み合わせに特有のものです。組み合わせが異なるとこのシステム限界も変化するので、ノイズ特性の悪化を避けるには、どのシステムでもこの限界点の位置を計算で求めることが重要です)

 さらに、図2図5からは、ADCノイズと電圧リファレンスノイズを一致させることが(これらが回路のパラメーターと関係するため)重要であることが分かります。入力信号が小さくて変更もできない場合は、入力信号を増幅することでADCノイズが低減し、そのためシステムの総ノイズも低減します。実際にシステムに入るリファレンスノイズが非常に小さくなるので、結果としてノイズの多いリファレンスでも使用できるようになるかもしれません。

 それと比べて、入力信号が中間スケールより大きい場合は、リファレンスノイズが支配的になることが予想できます。この場合、必ずADCノイズとリファレンスノイズが同等であるようにしてください。そうしないと、実際には使用できない電圧リファレンス性能にお金を払うことになってしまいます。幸い、リファレンスノイズの影響を抑えて高精度のシステムを維持する方法はいろいろあります。詳しくは次回(第9回)をご覧ください。

重要ポイントのまとめ

 電圧リファレンスのノイズがデルタ−シグマADCに与える影響を理解する際の重要ポイントを以下にまとめました。

  • リファレンス電圧からのシステムへのノイズ寄与は、FSR使用率により増減する
  • アンプと同様にリファレンスノイズには1/f領域と広帯域領域がある
  • 有効なFSRにはシステムのリファレンスノイズによる限界があり、それ以降は信号ゲインを上げてもノイズ特性は向上しない
  • ゼロ以外の入力信号での分解能の悪化を避けるために、リファレンス源のノイズ振幅をADCのノイズ特性と一致させるようにする

著者紹介

ブライアン・リゾン(Bryan Lizon)

 テキサス・インスツルメンツ 高精度ADC製品プロダクト・マーケティング・エンジニア


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