アルミ電解コンデンサー(4)―― 電解液、組み立て、再化成:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(37)(3/3 ページ)
前回に引き続いて電解液、素子の組み立て、そして再化成までを説明していきます。
エージング(再化成)
組み立てを終わった製品に規定の電圧を印加し特性を安定化する工程です。
陽極箔の酸化膜には箔の切断断面や巻回作業時のリード端子の機械的カシメ、その他の作業ストレスでどうしても欠陥ができてしまいます。
このまま放置して通電するとその欠陥部分から電気が流れてコンデンサーがショートしてしまいますが、サージ電圧に相当する電圧で連続的に通電することで図5に示すように電解液中の酸成分が新たな酸化膜をアルミ表面に形成し皮膜の欠陥を修復することができます(再化成)。
この役目が電解液のもう1つの大きな役割になります。
(2AL+3H2O→3H2+AL2O3となり6個の電子(6e-)が電流として流れます)
ただし酸化膜の修復時には上記のように水素ガス(H2)が発生しますので内部圧力を一定値以下に保つためには部分的な範囲の修復にとどめておかねばなりません。
この電解液による酸化膜の自己修復作用は、微少なリーク電流の発生にはなりますがアルミ電解コンデンサーの信頼性向上に役立っていることは間違いありません。また、この工程を通じて耐電圧の確認やショート不良品を除去できますので電解コンデンサーの初期段階での信頼性を高くすることができます。
特殊状品の体積効率
以上の工程から分かるようにアルミ電解コンデンサーの本来の形状は円筒形ですが、ユーザーの要求により示すようなさまざまな形状のものが派生しています。しかし、次の理由により特殊形状の物ほど体積効率は悪くなる傾向にあります。
- 扁平型:
- 巻取り後に整形のためにプレス加工を行うので、箔や電解紙が変形できるように緩く巻き取らねばなりません。したがって体積効率は悪くなります。
- ペンシル型:
- 鉛筆のような細長いタイプのものは巻き取られる箔の中央部分が振動したり、浮きやすくなったりますのであまり高密度に巻回できません。
- 低背型:
- コンデンサーの耐圧は本来、酸化膜の厚みで決まりますが、電解紙のスペーシングの距離は形状に関係なく電圧によって一定です。したがって低背型ほど箔幅が狭くなりますので体積効率は悪くなります。
今回は電解液や含侵、素子の組み立て、再化成(エージング)について説明しました。次回は故障率や寿命の面からみた電解コンデンサーの使い方、注意点について説明します。
よく市場不良の原因として取り上げられる4級塩問題についてはアルミ電解コンデンサーの最後に説明する予定です。
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執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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