アルミ電解コンデンサー(7)―― 複数負荷モードでの寿命計算:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(40)(3/3 ページ)
今回は複数の負荷モードが繰り返される場合の機器の寿命をいくつかの負荷モードに区分して考えます。
寿命末期の電解コンデンサーの振る舞い
電解コンデンサーは今まで説明してきたように導電体である電解液が揮発(蒸発)して減少し、この揮発したガスは封口ゴムのゴム分子間の微少な隙間を通じて大気中に放出されます。
このようにして箔の酸化膜(誘電体)と電解液の接触面積が減少し寿命になりますが注意してほしいのは「電解液は決して液体の状態でリードや封口の隙間から漏れ出るのではない」ということです。
ですからリードが同一面から出ているラジアル形の電解コンデンサーではその封口ゴム面に“T字”やそれに類似の凹みを設けてあり、揮発ガスが凹みを通じて大気に放出されるように工夫されているのです。
しかし振動対策としてコンデンサーの取り付け面全周を防振ゴムや充てん剤などで埋めてしまうとこの揮発ガスが大気へ放出されなくなり、結果として凹みの空間内で揮発ガスが再凝縮してWeb上で“液漏れ”と言われる現象になります。しかしこれは設計ミスですので本来の故障とは区別して扱うべきものです。
時間が経過して寿命末期になると電解液の減少に従って容量の源である酸化膜と接触している面積が減少しますので「容量減」が発生し、同時に電解液の接触面積の減少に伴ってESRも増加します。
この結果ジュール損(=IR2×ESR)も増加し、この発熱増加がさらなる電解液の揮発を促すという正帰還現象が発生し、寿命末期にはコンデンサーの発熱膨張、破裂という現象になります。したがって電解コンデンサーの寿命は機器の寿命より長く設計するか、機器に何らかの保護装置を設ける必要があります。
実際に一時期のPC用の安価なATX電源ではこの寿命設計を厳密に行っていない電源が見受けられ、そのような電源の多くは市場でコンデンサーの膨張、破裂を引き起こしていました。このような電源がコンデンサーは“パンクする”、“液漏れする”という誤った風評を作り出していったのですが一方、キチンと寿命設計されたATX電源はそのような事故はまれであり市場で独自の高評価を得ています。
また正しく寿命設計された電子機器は摩耗型故障率を持つ電子部品を考慮して設計していますので指定期間を超えると急激に故障率が上昇します。したがって電解コンデンサーだけを更新しても新たなる寿命時間を得ることはできないと考えてください。
(GaAS素子(フォトカプラ、発光ダイオードなど)、機械部品(SW、FAN、リレーなど)、突入電流抑制抵抗、ヒューズ、など摩耗型部品は数多くありますし、機内ビニル配線は硬化してヒビ割れてきます)
次回は湿式アルミ電解コンデンサーの市場不良の現象を説明すると共に、原因、背景などを考えたいと思います。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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