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プロセッサ級の計算能力を備えた高速マイコンが登場、エッジ処理の実現がさらに容易に汎用性はそのままに、処理性能は従来比で10倍

リアルタイム制御や産業用ネットワークのサポート、高性能処理、セキュリティなど、スマート工場や自動運転に必要とされる性能を、1チップで実現するマイコンが登場した。Texas Instrumentsは、マイコン設計のシンプルさとプロセッサレベルの処理性能を併せ持つ「Sitara AM2x」によって、マイコンの性能を“再定義”する。

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プロセッサとマイコンの性能ギャップを埋める

 スマート工場や自動運転などのアプリケーションでは、収集された膨大なデータを高速かつ効率的に処理して、システム全体を動的に調整して制御する必要がある。そのため、リアルタイム制御や、より柔軟で高速なネットワーキング機能、より高精度なエッジ処理に対する要求が高まっている。

 一方で、こうしたシステムを実現する上で課題となりつつあるのが、マイコンの性能だ。ナノ秒レベルのリアルタイム制御や、多くの規格が混在する産業用ネットワークのサポート、高速なエッジ処理など、高性能のコンピューティング能力と制御能力の両方を実現するには、極めて高性能のマイコンが求められる。それ故、従来は“マイコン+外付けのネットワーキングデバイス”といった構成を採用したり、コスト高にはなるがプロセッサを採用したりすることで、対応してきた。

 これを「1つのマイコン」で実現すべく開発されたのが、Texas Instruments(TI)の新しいマイコンファミリー「Sitara AM2x」である。TIが、「従来のマイコンとプロセッサの性能ギャップを埋める新しいマイコン」と位置付ける製品で、マイコン設計のシンプルさとプロセッサレベルのコンピューティングを併せ持つ。

 Sitara AM2xは、「Arm Cortex-R5F」コアの他、アクセラレーター、アナログ周辺回路、暗号規格をサポートするセキュリティエンジンなどを統合している。アクセラレーターは、信号処理向けと高度なネットワーキング向けの2種類が用意される。産業用ネットワーキングやモーター制御用のエンコーダー信号の処理、ADAS(先進運転支援システム)のレーダー処理といった負荷の高い計算をこれらのアクセラレーターで行うことで、Cortex-R5Fコアの負荷をオフロードできる。


「Sitara AM2x」は、従来のマイコンとプロセッサの“いいとこ取り”をしたようなイメージだ

 日本テキサス・インスツルメンツのインダストリアル・エリア アプリケーション技術グループでTI主任技師を務める松本英昭氏は、「TIには、プロセッサ『Sitara』や、リアルタイム制御マイコン『C2000』、Arm Cortex-R4F/R5Fベースのマイコン『Hercules』などのラインアップがある。ただ、SitaraとC2000/Herculesの間には処理性能の点で大きなギャップがあった。マイコンとして設計のしやすさは維持しつつ、C2000やHerculesよりも高性能で、Sitaraよりも安価な製品として提案できるマイコンファミリーを開発したいと考えた」と語る。

最大6000DMIPSの処理性能を持つ「AM243x」


日本テキサス・インスツルメンツの松本英昭氏

 Sitara AM2xファミリーの第一弾となるのが「Sitara AM243x」だ。最高800MHzで動作する「Arm Cortex-R5F」コアを最大4個搭載し、処理性能は最大6000DMIPSを超える。これはHerculesの約10倍であり、マイコンの性能を“再定義”する製品だといえる。

 さらに、優れた電力効率を達成しており、高速な計算を1W未満という低い消費電力で実現する。

 Sitara AM243xは、2個のアクセラレーターを搭載している。これらは、TIの既存のプロセッサであるSitaraシリーズに搭載されている「PRU-ICSS(Programmable Real-Time Unit-Industrial Communication SubSystem)」から、大幅改良された「PRU-ICSS Gb」というエンジンだ。TSN(Time Sensitive Networking)対応のGbE(ギガビットイーサネット)のサポートが可能になる他、TIが提供する認証済みのプロトコルスタックを活用することで「EtherCAT」「EtherNet/IP」「PROFINET」といったさまざまな産業用プロトコルとのコネクティビティをすぐに確立できる。「従来、マイコンのみでは難しかったネットワーキング、もしくはプロセッサではコスト高になるネットワーキングが、Sitara AM243xのアクセラレーターを使うことで容易にできるようになる」(松本氏)


「Sitara AM243x」のブロック図。「Industrial Ethernet」「Motor control(OR)Industrial Ethernet」と書かれた緑のブロックが、「PRU-ICSS Gb」というアクセラレーターだ

 さらに、Sitara AM2xには、「Arm Cortex-M4F」コアを搭載した「MCU with FFI(Freedom From Interference)」という回路ブロックが搭載されている。他の領域からは遮断された独立したブロックで、「MCUアイランド」とも呼ばれる。この回路ブロックと、もう1つ外付けのマイコンを使用することで、冗長設計が可能になり機能安全に対応できる。こうした機能安全のメカニズムに加え、関連資料も用意しているので、システムインテグレーターは、産業用設計においてIEC 61508規格のSIL 3を目標にすることができる。

 上述のアクセラレーターに加え、暗号化などを行うセキュリティアクセラレーターも搭載している。このアクセラレーターは、セキュアブートやセキュアストレージ向けに使われる。例えば、起動時に外付けのフラッシュメモリやROMから暗号化されたプログラムを読み出すときや、暗号化されたデータをUSBメモリから読み出すときに、暗号を解読するために同アクセラレーターを活用する。

 なお、Sitara AM243xは2Mバイト容量の高速SRAMを内蔵する。起動時に外付けした安価なフラッシュメモリやROMからプログラムを全て読み出し、この内蔵SRAMに展開しておけば、1チップのみで動作が可能だ。プロセッサのようにDDRを外付けする必要はない。

 Sitara AM243xは、シングルコアの「Sitara AM2431」、デュアルコアの「Sitara AM2432」、クアッドコアの「Sitara AM2434」があり、それぞれに複数のオプションが用意されている。パッケージサイズは17×17mmまたは11×11mmで、1000個購入時の参考単価は6.05米ドルから。評価ツールとして「Sitara AM243x LaunchPad 開発キット」も89米ドルで提供している。

1つのマイコンで「処理」「制御」「ネットワーキング」が可能

 6000DMIPSという、マイコンとしては破格の計算能力を活用するリアルタイム制御や高性能処理、アクセラレーターによるさまざまな産業用通信、そしてSIL-3やASIL-D規格への準拠を支援するセーフティを、1つのマイコンで実現するSitara AM243x。「1つのマイコンで実現する」というのは、Sitara AM2xで中核となるコンセプトだ。ベアメタル(OSなし)での稼働も可能なマイコンは、LinuxなどのリッチOSを稼働させるプロセッサに比べれば、設計者にとってはやはり使いやすいケースも多い。TIがマイコンの性能を“再定義”したSitara AM2xは、スマート工場や自動運転のさらなる進化を支えることになるだろう。


高性能処理、リアルタイム制御、ネットワーキングを「1つのマイコン」で実現するSitara AM2x

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提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年10月12日

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