半導体(3) ―― 実際に経験した不良と対策(II):中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(62)(3/3 ページ)
前回に引き続いて筆者が経験した不良について説明していきます。今回は、ダイシング済みのチップを実装するときの話になります。
銀ペーストの飛び散り
ICの動作不良が発生し、原因解明のためにモールド樹脂を溶融して分解チェックを行ったところ図4に示すようにフレームの一部に銀ペーストが付着してピン間を短絡していました。
この銀ペーストは図5(a)のようにチップをフレームに固定しチップ裏面との導通をとるためにものです。この工程では図5(b)の注射器状の器具(シリンジ)で定量を押し出して必要量を確保しています。
しかしシリンジへの銀ペースト補充のためにピストンを抜き、補充後に再挿入する時に空気を巻き込みやすくなります。巻き込まれた空気は泡状の状態となって圧縮され、図5(c)のように塗布時に膨張・破裂し、ペーストを飛散させます。
【対策】
シリンジの管理マニュアルを改訂し、ペースト補充タイミング、空気の追い出し確認、出来栄えチェック、などの手順を明文化しました。
リードフレームの搬送歪み
基準電源用ICで図6に示すようなワイヤーの変形が発生し、工程の監査を行ったところ、フレームの搬送に時として振動を生じていることが確認できました。
設備を詳細に調査した結果、ワイヤーボンディング後の搬送用ローラーの1カ所にベアリングの摩耗が見つかり、ローラーのスムースな回転ができずリードフレ−ムが蛇行および、尺取り虫のような波打つ搬送状態になっていました。
その結果、リードフレームが歪み、ボンディング済みのワイヤーが引っ張られてワイヤーのアーチ(ループ)がつぶれてチップエッジと接触したものと分かりました。
【対策】
- 搬送コンベアのメンテナンス間隔を見直し、適正化を図りました。
- 搬送ローラーのベアリング摩耗度(回転抵抗)をチェックするため、規定の重りを付けた定尺のひもを巻きつけ、ローラーが回転してひもが落下する時間を計ることで日々のベアリング摩耗度を管理するようにしました。
- 日々の始業点検時に搬送状況を作業日報に記載するようにした。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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