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ホットキャリアによるマイコンの不良ハイレベルマイコン講座【ホットキャリア編】(4/4 ページ)

すでにマイコンを使い込まれている上級者向けの技術解説の連載「ハイレベルマイコン講座」。今回は、マイコン内のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ:Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:以下MOS)で生じる不良の1つ「ホットキャリア注入(Hot Carrier Injection:以下HCI)」について、その発生原因やマイコンに与える影響などを解説する。

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HCIによるマイコンの不良現象

(1)発振回路

 発振回路は、代表的なアナログ回路といえる。実際にマイコンを使う際に、発振回路と振動子の特性の調整に苦労したユーザーも多いのではないか。A-DコンバーターやD-Aコンバーターもアナログ回路の代表的な機能だが、発生する可能性はゼロではないものの、極めて低い。

 そのため、アナログ回路の中で最もHCIが起きやすい回路は、発振回路となる。なぜなら、発振回路は常に動作しており、MOS内でキャリアが常に移動しているからだ。

 マイコンによって発振回路の構成が違うため、一般的なインバーターを使った負帰還増幅器を例に挙げて解説する(図7)。インバーター内のMOSでHCIが発生すると、振動子を駆動する能力が落ちて発振が不安定になり、最悪の場合は発振が停止する。


図7:一般的な発振回路[クリックで拡大]

 かなり昔に開発されたマイコンであれば、マイコンの電源が発振回路の電源に直結され、さまざまな振動子に対応できるようにドライブ能力が高く作られているので、キャリアの移動が激しい。そのため、高電圧電源の加速試験を行うと、HCIが発生する事例が見受けられた。しかし、最近の発振回路は、消費電力を節約するために、発振回路内に電流制限機能や電圧レギュレーターなどが設けられている。インバーター内のMOSに流れる電流は最小限に抑えられているため、キャリアの移動も抑えられている。

(2)汎用IOのドライバーMOS

 汎用IOのHCIに対する最も過酷な使用条件は、直流電流を常時流すことだ。それも大電流であるほどキャリアが多いので、HCIが起こりやすい。LED点灯がこれにあたる。汎用IOの電源は、外部とのインタフェースを取る必要があるため、レギュレーターなどで降圧されることはない。さらには、マイコンの電源電圧が3V系でも、LEDの電源が5Vである場合、MOS内にさらなる高電界を作ることになる。

 一般的なLEDを点灯させるためには、15m〜25mAの電流を流す必要がある。高輝度LEDでは、それ以上の電流が必要となるため、キャリアが大量に移動する。さらに電源電圧が5Vであれば、高電界に拍車が掛かり、HCIが最も起きやすい条件になる。

 NMOSを使ってLEDをドライブする回路(図8)では、NMOS内で常に大量の電子が加速されて移動している。HCIを考慮してNMOSをLDDにすると、流すことのできる電流を制限することになり、ドライブ能力が落ちる。LEDは電流量が減ると輝度が落ちたり、点灯しなくなったりする。そのため、汎用IOのドライバーMOSには、一般的にSDが使われる。

 プロセス開発時に、SDでもHCIが起きないように設計するため、製品化したマイコンの汎用IOでHCIが起きることはないが、マイコンの中ではHCIに対して最も過酷な部分だといえる。


図8:汎用IOでLEDをドライブする場合
STM32F429リファレンスマニュアルから抜粋[クリックで拡大]

参考

 (1)HCIは不良現象というイメージがあるが、実はそうではない。「Q&Aで学ぶマイコン講座(55):マイコン内蔵フラッシュメモリの書き込み&消去動作」で述べたように、マイコン内蔵のフラッシュメモリはホットキャリアを利用して、プログラムなどのデータを保存している。フラッシュメモリの場合は、わざわざホットキャリアを保持するためのフローティングゲートを設けて、そこにホットキャリアを注入するか、抜き取るかによってデータの0か1を決めている。

 (2)HCIの回復方法として、高温放置(電源を印加せずに、高温状態に置いておくだけ)が効果的だということは広く知られている。ゲート酸化膜やゲート電極に入り込んだキャリアに熱を与えると、熱エネルギーを得たキャリアはゲート酸化膜やゲート電極から抜け出て、元の状態に戻る。

 このことから分かるように、通常HCIは常温以下の温度状態で発生し、高温になると回復する。ただし高温状態でも仕様よりも高電圧を電源に印加した場合は、発生する場合がある。

【お詫びと訂正】掲載当初、LEDに流す電流の記載に誤りがございました。「15〜25A」ではなく、正しくは「15m〜25mA」になります。お詫びして訂正します。(編集部/2021年3月11日午後5時15分)

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