GaNパワートランジスタとは:GaNパワー半導体入門(1)(3/3 ページ)
省エネ化/低炭素社会のキーデバイスとして、化合物半導体である窒化ガリウム(GaN)を用いたパワー半導体が注目を集めている。本連載では、次世代パワー半導体とも称されるGaNパワー半導体に関する基礎知識から、各電源トポロジーにおけるシリコンパワー半導体との比較まで徹底解説していく。第1回である今回は、GaNパワートランジスタの構造や特長、ターゲットアプリケーションなどについて説明する。
AlGaN/GaN構造のGaNパワートランジスタの特長とターゲットアプリケーション
AlGaN/GaN構造のGaNパワートランジスタには以下の特長がある。
- 低ゲート入力電荷(低Qg)、低出力容量(Co)で、高速スイッチングが可能
- しきい値電圧がゲート部のPN接合で決まり、温度依存性が極めて小さい
- オン抵抗は正の温度依存性をとる
- ドレイン/ソース間にPN接合がないためリカバリー電荷がゼロ
- 電流経路が横型なため体積熱容量が小さく、熱耐性が極めて小さい
- しきい値電圧が1V程度で、ノイズなどによる誤動作防止に注意が必要
インダクターを利用した電力変換システムでは、高周波数でトランジスタを動作させることでより小さなインダクターを採用できる。スイッチング損失が小さく、かつリカバリー電流による損失がゼロになるため効率向上が望める。GaNは、オン抵抗としきい値の特長から並列使いが容易で、大電力化の選択幅が広がる。ただし、AlGaN/GaN構造のGaNは横型であるため、縦型のようにチップ全体で熱を受け止められず熱耐量が非常に小さくなる。熱耐量が小さいと貫通電流や短絡電流の発生でデバイスが簡単に破壊してしまうため、この弱点をカバーできるゲート駆動技術に必要なってしまう。
よってGaNは、短絡耐量を必要としない電源システムに有効である。数キロワット以上の高電力変換システム(DC-DCコンバーター、オンボードチャージャーなど)といった電源の性能向上に大きな期待が持てる半導体デバイスといえる。他方、短絡電流発生時に一定の熱耐量を求められるモータードライブでの適用にはハードルが高いと考えられる。
高周波スイッチングアプリケーション向けパッケージ
スイッチングが高速になるにつれ、寄生インダクタンスによるノイズ対策が必要になる。
近年GaNパワートランジスタメーカー各社は、図5のようなワイヤボンディングが不要なパッケージを提供し始めている。一般的にパワートランジスタではワイヤボンディング部に数ナノヘンリーの寄生インダクタンスが発生するのに対し、ワイヤボンディングレスのパッケージでは1nH未満と非常に小さくなる。一例として、8×6mm角のパッケージにおける各端子の寄生インダクタンスは、ドレイン/ソース/ゲートの順に0.5nH/0.01nH/0.03nH(AC 1GHz条件下)といったデータがあり、現在製品化されているリードレスタイプの面実装パッケージよりも小さい寄生成分となっている。
今後GaNパワートランジスタが広く普及していくためには、ゲート駆動技術が重要になる。高速スイッチングかつしきい値が小さいという条件の下、寄生インダクタンスによるノイズ発生を極限まで抑えることは、GaNを使いこなす上で必須である。ワイヤボンディングレスのパッケージとともにゲート駆動の最適化が進んでいくことに期待したい。
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