ジャンクション温度の計算(2)―― 三角波状損失の温度計算の基礎:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(76)(2/2 ページ)
温度計算のツールともいえる原理(前提条件、仮定)を各種波形に適用し、得られた結果と従来の式を比較し、その妥当性を検討していきます。
数値計算の検証
実際に7式と8式を計算してみます。7式は精度維持の観点から表計算ソフトで計算します。
7式で2/3に該当する項
をn=2、5、10、…2000まで順次増加させて計算した値と2/3に対する誤差を表1に、また漸近の様子を図4に記します。表1や図4から級数は分割数nが200を超えると2/3に漸近していくことが確認できます。
ハンドブックとして公開されている資料の中にはこの値を0.669としているものもありますが表1から計算をn=200程度で打ち切ったものと分かります。しかし両者の違いは誤差としては0.4%弱ですから問題になるような誤差ではありません。
実際の温度計算に当たっては損失を三角波や矩形波に近似する時点ですでに誤差が生じてしまいます。ですから損失波形を10ないし20分割すれば積算誤差は10%〜5%以下となり十分に実用的といえます。
また誤差10%程度を許容するなら波形の分割は10程度で良いことになります。
ただし、ハンドブックとして記載するなら計算根拠の説明(裏付け)をした上で簡易式を記載すれば安心度も高くなると思います。本稿では数式的な簡便性から係数として2/3を採用します。
閑話休題
一部の関数では変数の領域が定義されているものがありますが時として本来の変数領域を超えて関数を使用したい場合があります。この場合には変数領域外まで関数を使用するために変換用の関数を定義する必要があります。この本来の変数定義領域外まで変数を拡張する作業を解析接続といい、変換用の関数を関数等式と呼びます。特にsが複素数なら関数等式は無限階微分可能な正則関数でなければなりません。
ζ関数は一般にはリーマン・ゼータ関数を指し、sを複素数、nを自然数として
と定義される関数です。s=1の時は発散しますがsの実部(Re)が1以上なら収束します。したがってζ関数の値の定義域はRe(s)>1ですがRe(s)<1の領域では解析接続によって値を得ることができます。解析接続を行った場合にはs=0.5を中心に関数値が対応します。
例えば、ζ(0)←→ζ(1)、ζ(−0.5)←→ζ(1.5)、ζ(−1)←→ζ(2)などが対応しますが、この“対応する”意味は“等しい”ということではなく、変換前の関数値を元に計算されるという意味です。
*ζ関数の解析接続の関数等式は、
です。
10式のs=−0.5の場合は
となり、
ですからζ(−0.5)は有限値(−0.20788…)です。 ここでΓはガンマ関数です。
今回は「重ね合わせの理」と45°熱拡散モデルを使って基本となる三角波の損失波形について計算式を検討しました。あまり見ることのない数式も用いましたがその結果、ハンドブックなどに記載されている近似係数の0.669は波形を細分化して計算したものと推測できることが分かりました。
次回はこの三角形状の損失と重ね合わせの理を使用して三角波の形状を一般形状へ拡張することを考えたいと思います。
【注意】前回は特に説明しませんでしたが「熱抵抗Rth」とは物体の任意の2点間に熱流量P(W)を与えて2点間に温度差ΔTが生じた時、Rth=ΔT/Pで定義される物理量(℃/W)であり、電流(A)、電位差(V)から定義される電気回路の電気抵抗Ω(=V/A)に相当します。したがって接続点が質点の場合には両者とも電気(熱)抵抗が無限大になるので接続点には一定の面積が必要です。
※本稿では過渡熱抵抗は√(t)に比例していると仮定していますのでこの条件から外れると計算結果は異なってきます。このことを無視すると得られた結果の信頼性はなくなりますので適用条件には気を付けてください。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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