ステップアップ形DC/DCコンバーターの設計(2)使用する部品の定格:たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(9)(4/4 ページ)
今回はステップアップコンバーターに使用する部品の定格について説明、検討していきます。
ジャンクション温度の推定
実測の温度データからジャンクション温度を推定する方法は前シリーズのステップダウン形DC/DCコンバーターで説明しました。再度の説明は冗長になりますので該当ページを参照願います。
<過渡的電流>
回路図から分かるようにステップアップコンバーターには電源投入時に電流を制限する機能がありません。そのため電源投入時には外部負荷容量への過大な充電電流が流れる場合がありますがこの場合のダイオード電流IdPは温度ディレーティングを考慮したIFSMやI2tの制限内でなければなりません。次に説明するIFSMやI2tは「25℃+ΔTj」がTj(MAX)に達する短時間シングルパルスの熱定格の別の表記法だと考えてください。
IFSM:最大サージ電流です。50Hz、60Hzの半波正弦波の電流ですから印加時間は8.3msか、または10msのシングルパルスです。
前述したように実際のステップアップコンバーターでは電源投入時に平滑キャパシターC1をVCCまで充電するので電源VCC→チョークL1→ダイオードD1のループで大きな充電電流が流れます。
ですがこの波形は単発、かつ短時間であり熱的には大きくは影響しませんのでIFSMの80%に収まっていれば問題ありません。80%以内に収まっていない場合は次に述べるI2t値で判断します。
I2t値:最大サージ電流IFSMの定義幅(8.3/10ms)より短い時間幅のサージ電流に適用される値です。波形は正弦波実効値、あるいは矩形波です。時間が(8.3/10ms)の時はIFSMと同じ値になり、より短い時間ではどんどん大きくなりますがワイヤやチップへのダメージの観点から1msを下限とします。したがってI2tで許される最大電流はIFSMの約3倍が限度です。前述のC1への充電電流はIFSM値よりもI2t値の方で判断する事例が多くなります。
A2sをI2tの保証値、tWを過電流の持続時間とした時、ジャンクションの過渡温度上昇をΔTjは、
で推定できることは前シリーズでも説明しました。
この値を用いたジャンクション推定温度(Ta+ΔTj)はTj(MAX)の70%を超えないようにします。ここで70%としているのは推定のあやふやさを考慮しているためです。
今回はステップアップ形DC/DCコンバーターの主要部品について要求仕様について検討しました。ディレーティングの考え方はステップダウン形と同じですが、動作原理の違いから要求仕様については微妙に異なってくるので注意してください。チョークの要求特性は次回に説明します。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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