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紆余曲折をへて投入されたTI「TMS320」 他社の追随許さぬDSPシリーズにマイクロプロセッサ懐古録(9)(1/4 ページ)

前回に続き、Texas Instruments(TI)のDSP「TMS320」を取り上げる。TMS320が登場するまでのTIの様子や、TMS320の開発が始まった経緯、製造をへて市場投入に至るまでを追っていきたい。

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TIはTIで混乱していた

 前回は、Texas Instruments(TI)のDSP「TMS320」が登場するまでの業界の様子をご紹介した訳だが、では肝心のTIはどんな動きをしていたのか?というと、これがいろいろ混乱していた。第5回「一発屋で終わったけど抜群の影響力、TI「TMS1000」」で説明したように、同社は4bit MCUでそれなりの成功を収めたが、その次に8bitを狙うのではなく、16bit CPUを開発していた。これはTMS1000とは全く別の流れである。

 もともとTIは、1969年に「TI-960」という16bitミニコンを発表(出荷は1972年)、1970年には機能を強化した「TI-980」というミニコンをやはり発表している。これらはTTL ICを組み合わせた製品であるが、同社の祖業である油田の位置の弾性波探索(振動を与えて、その伝搬する様子から油田の位置を探索するというもの)のデータ処理にコンピュータが必要だったということでミニコンを開発していた。1970年代になるとこの弾性波探索ビジネスは下火になっていたが、ミニコンのビジネスそのものは比較的大きな比重を占めていた。このTI-960/980の後継製品の開発にあたり、そろそろTTLをベースとするのではなく、LSIを利用しようという話になってきた。「TI-990」と呼ばれた後継機種のうち、ハイエンドの「TI-990/9」とその改良版である「TI-990/10」については引き続きTTLベースで設計されたが、ローエンド向けの「TI-990/4」はワンチップのCPUを構築する事になる。こうして生まれたのが「TMS9900」という16bit CPUだった。要するにTMS1000とは全く別の流れで生まれてきたわけだ。

 70年代末のTIの社内では、このTMS9900シリーズをさらに推進していくという動きが主流であった。TMS9900そのものもバリエーションが増え、内部は16bitのままながら外部バスを8bitにして低価格化を狙った「TMS9980」シリーズが追加される。またミニコンの分野だけでは十分な出荷量が望めないということでパーソナルコンピュータの世界にも進出、TMS9900を搭載した「TI-99/4」やその廉価版の「TI-99/4A」を自社で発売。当初こそ好評だったものの競合製品との価格競争に陥り、1983年第2四半期だけで1億米ドル以上の損失を出す。翌第3四半期も1.1億米ドルの損失を出すが、この際にパーソナルコンピュータ部門からの撤退を発表した。TI-99/4Aの後継製品はキャンセルされ、後継製品向けに開発されていた「TMS9995」というチップはトミー工業のぴゅう太などに採用される程度でしかなかった。

 これと並行して進んでいたのが、TI-990/10の後継製品向けとなる、より高性能な16bit CPUで、Alphaというコード名(最終的にTMS99000と名付けられた)だったが、当初は2.5μmプロセスで製造予定だった(TMS9900は5μmプロセス)。ただこの2.5μmプロセスはいろいろと問題が多く(名目上は5Vで動作するSMOSプロセスとされていたが、実際は4Vを超えると急にリークが激増して使い物にならなかったらしい)、最終的にゲート長を3μmまで拡大する事で解決する。このAlphaは1981年にTape outし、その1981年中にこれを搭載したTI-990/10Aを発表したが、残念ながらあまり売れなかった。派生型でTMS99110/99120というものもあったが、カタログに掲載はされたものの実売はされていない。

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