サブハーモニック発振(2)発生防止策:たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(26)(3/3 ページ)
今回はサブハーモニック発振の発生を防止する対策について説明します。
補償量の範囲
スロープ補償の値には7式から下限があることが分かったので次に最大補償量の値について考えます。
スロープ補償の最大補償量(傾斜)は図3のイメージ図に示すtoffの傾斜と等しくなった時です。この条件では+ΔIの変動を生じてもtoff終了時に+ΔI変動の影響が100%キャンセルされます。これ以上補正しても効果は変わりませんし、過電流垂下特性が外側へ膨らむ弊害が目立つようになってきます。
結局、スロープ補償の範囲としては7式と上限値(=a2)と組み合わせた8式となります。
5式、8式の各電流傾斜a1、a2は使用するチョークのL値によって変わります。ですから制御ICとしては外部の定数によって補償量a3を調整できる機能を持つことが望ましいと分かります。
しかし1チップパワーICのように外部のピン数が限られている場合には補償量が内部固定になり外部から調整ができません。このような場合のスロープ補償の値は回路として取りうる最大δとインダクタンス値の組み合わせで補償量a3を決めておく必要があるのです。
ですから多くの1チップパワーICではインダクタンスの値について一定の範囲を想定して内部の補償量を決めています。したがってメーカー想定の範囲を超えたインダクタンスを用いてサブハーモニック発振が発生した場合は8式の関係を満足するようにインダクタンスを調整してしてください。
多くの1チップICの評価・推奨回路に部品の具体的品番が表記されているのはこのインダクタンス値なら8式の補償量の範囲に入ることを表していることに他なりません。
推奨L値の範囲が記載されていない場合は許容インダクタンス値の範囲をメーカーに問い合わせてください。
なお、ここではDC-DCコンバーターを例に挙げましたがフィード・フォワード型、他励フライバック型などの絶縁コンバーターでも周波数固定の電流制御式PWMの場合は動作原理は同じなのでスロープ補償がない場合はサブハーモニック発振が発生します。
今回はサブハーモニック発振の対策としてスロープ補償の原理と最低限度必要になる補償量について説明しました。
サブハーモニック発振については今回で終わり、次回はON-OFF型コンバーターが持つ潜在的な不安定要素について説明します。この現象は既に状態平均化法と呼ばれる数学手法で解析、説明されていますが本シリーズでは状態平均化法の結果の意味を図式解法で試みたいと思います。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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