ルネサスへと引き継がれた「H8」の血脈:マイクロプロセッサ懐古録(15)(3/3 ページ)
今回は日立製作所が開発した「H8」を取り上げる。Motorolaとの訴訟問題を機に生まれたH8は、やがて「SuperH」の開発につながるアーキテクチャだ。現在は多くの製品が生産中止になっているものの、まだ市場に生き残っている息の長い製品である。
「H8S」から「SuperH」へ
ただこのH8/300Hはなにしろ1990年初頭の話だからまだCADツールを利用して設計されていたが、これをVerilogで完全に書き直したのが「H8S」シリーズである。このH8Sでは内部的には32bit構成になっており、H8/300Hの2倍の性能を実現。動作周波数も50MHzまで引き上げられ、主要な命令は1cycleで実行可能になっていた。このH8Sをベースに完全32bit CPUとしたのがH8SXで、動作周波数は最大80MHzに達している。
このH8/300HとかH8SはH8/300との後方互換性を保っていたから8bit CPUとして利用する事はもちろん可能だったが、実質的には16bit CPUである。ただ既存の市場はこれで良いとして、今後の展開を考えた時にはRISCへの移行が必要ではないかという議論が当然あったらしい。背景にあるのはやはりMotorolaとの訴訟であり、独自アーキテクチャを開発するにあたっては全く新しいものを作らないとケチが付く、という教訓を日立の開発陣に残した訳だ。それもあって全く新しいアーキテクチャを、32bitで構築しようというプロジェクトが日立社内でスタートし、これが「SuperH」につながった訳だ。
H8シリーズはルネサスが引き継ぐ
ただSueprHは言ってみれば高性能CPUであり、逆に言えば既存の8/16bitはH8シリーズで良いという見切りを付けられた格好だ。それもあって製品はともかく、CPUのアーキテクチャとしてはこのH8SやH8SXが最後となった。ただ日立は長くこのH8シリーズの製品をメインテナンスしており、それはルネサス エレクトロニクスに引き継がれることになった。幸い(?)にも、ルネサス エレクトロニクスのラインアップ、つまり旧NECエレクトロニクスと旧日立、旧三菱電機のマイコン向けCPUでH8と競合するような製品はほとんど無かった事もあり、長く生き残る事になった。現在もまだ供給が続いている(新規設計には非推奨)ものもある(例:H8/3687が、既に多くの製品はDisconになってしまった。ただRochester Electronicsなどの業者が引き続き供給している他、冒頭でも述べたようにH8SのIPが正式に入手可能であり、これを利用してFPGAあるいは自身のASICにH8Sを搭載する事も可能である。まだH8は市場に生き残っているのである。
⇒「マイクロプロセッサ懐古録」連載バックナンバー一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ファミコンにも採用された「MOS 6502」、その末路をたどる
今回は、メーカーそのものが無くなり「一発屋」となってしまった「MOS 6502」を紹介したい。任天堂の「ファミコン」にも採用された製品だが、その末路は「会社がなくなったことによる断絶」だった。
スマホが変えた組み込みのエコシステム 波にのまれて消えた「MIPS」
2000年代前半、組み込みプロセッサコア市場で大きなシェアを獲得していたMIPS。だがスマートフォンの台頭とともに変化し始めたエコシステムにうまく対応できず、その勢いは下火になっていった。
8ビットMCUでまだ現役 Atmel買収後も生き残った「AVR8」
今回は、旧Atmel(現Microchip Technology)のRISCプロセッサ「AVR8」を紹介しよう。ノルウェー出身の2人の技術者が開発したAVR8は、8ビットMCUでは一時期30%のシェアを獲得するほど広く使われた。AtmelがMicrochipに買収された後も、いまだに“現役”である。
先見の明が支えたMotorola「MC68000」 PowerPCの陰でロングセラーに
今回はMotorolaの「MC68000」を紹介したい。1990年代に、32bitの組み込み向けプロセッサとして、派生品も含めて圧倒的なシェアを誇っていた製品だ。その生い立ちと衰退までの経緯、そして現状を解説する。
表舞台に上らなかった「世界初」のプロセッサ、MP944
一般的に「世界初」のプロセッサとされるのは「Intel 4004」だ。だが、それよりも前に登場し、使われていたプロセッサがある。Garrett AiResearchの「MP944」だ。だがその知名度はとても低い。その理由はなぜなのか、MP944の概要とともに語りたい。
登場して半世紀、多くの互換品を生んだIntel「80186/80188」
1980年代初頭に登場したIntelのマイクロプロセッサ「80186/80168」は、多くの互換CPU/CPU IPを生んだ。発売後、半世紀近くがたった今でも、多くの組み込み機器で動作している驚異的なロングランのプロセッサである。