20年と短命だった「PowerPC」、旧Freescaleが粘るもArmに勝てず:マイクロプロセッサ懐古録(18)(3/3 ページ)
今回はApple/IBM/Motorolaの3社が共同開発したアーキテクチャ「PowerPC」を紹介する。「IBM 801」を源流とするこのMPUは、系譜がさまざまに広がり、組み込み向けでは大ヒットするも、Armには太刀打ちできなかった。
そしてArmに負けた
では何があったか? 端的に言えばArmに負けたという話である。PowerPC陣営はx86と非常に似ており、CPUを製造する2社だけがPowerPC製品を作れるという形で、MIPSとかArmのように多数の半導体ベンダーが製造できるという構造になっていなかった。何しろAIM AllianceがApple/IBM/Motorolaの3社だったから、これは仕方がない。
これを打開するため、2004年にPowerPCの標準化を行う団体としてPower.orgが結成される。ピークでは36組織が加盟するそれなりの大きさを持った団体になっており、ここでアーキテクチャや仕様の標準化とかプラットフォーム/デバッグ仕様の標準化などの作業が行われた。PowerPC ISAとPOWER ISAがまとめて標準化対象となっており、これを利用して自身でのプロセッサの開発が行える「はずだった」。
ところがPower.orgの勢いはそれほど強まることにならなかった。IBMとFreescaleはPowerPCベースのコアを開発しており、これに加えてAMCCがTitanという独自のPowerPCコアを開発、さらにP.A.SemiがPWRficientと呼ばれる独自コアをやはり開発しており、Freescaleはe200に加えてe500コアのIPでの提供をIPextreme経由で行う計画があった。ところがAMCCはTitanの開発を途中で中断。2012年に突如としてArm v8-AベースのX-Geneを発表するというArm陣営への“鞍替え”を行う。P.A.Semiは2008年にAppleに買収され、PWRficientコアは幻と消えた。IBMは前述のように2004年にPowerPCの全製品ラインアップをAMCCに売却済み。結局PowerPCの開発を続けたのは事実上Freescaleのみとなった。それでもFreescaleは結構、最後まで粘った。自動車向けでは自社に加えてSTMicroelectronicsを2007年に引き込み、この結果としてSPC5シリーズがリリースされる。
ただそのFreescaleにしても、民生向けのi.MXシリーズはArmベースだったし、Network向けのQorIQも、2012年にQorIQ Layerscapeという後継アーキテクチャに切り替わったが、こちらはPowerPCとArmの両対応であり、結局Armベースがメインになってしまった。自動車向けが最後の牙城だったが、2015年にFreescaleがNXP Semiconductorsに買収されてから、ここもArmベースに切り替わっている。
これに先立ちPower.orgは2013年にその役割を終え、OpenPOWER Consortiumがその後継を務めたが、現在はOpenPOWER Foundationに改称している。IBMはLinux FoundationにPOWERアーキテクチャそのものを寄贈しており、これをOpenPOWER Foundation経由で無償で入手可能である。そもそもPower.orgであまりCPUを開発するメーカーが増えなかったのはライセンス料が高すぎた(数百万ドルといわれている)のが問題だったとされるので、これが無償になれば利用者も増えるのでは?という事なのだろうが、あまりに遅すぎたと言わざるを得ない。
既にNXPはPowerPCアーキテクチャを捨ててArmにおおむね移行が完了しているし、IBMはもうPowerPCをほぼ捨てている。現在もPowerPCを利用している分野は?というと意外なところでは航空宇宙向けがある。e2v(現Teledyne e2v)はFreescale(というかNXP)からライセンスを受けて、航空宇宙グレードのQorIQを製造して提供している(例えばQorIQ Pシリーズ)。ただこれも次第にArmベースのLayerscapeシリーズに置き換わりつつある。
PowerPCは、MIPSとはいい勝負だったし、SuperHやVシリーズには勝ったと言っても良いかもしれない。だが、Armには勝てなかった。登場から20年程で市場から消えた、というのはアーキテクチャとしては短命な部類に入るのではないかと思う。
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